4.Blessed are the forgetful for they get the better even of their blunders.

夜とも朝ともつかない時間、地を這うような呻き声を聞いて目が覚めた。正直あまり気持ちのいい目覚めではない。何事かと思い隣を見ると、リヴァイがうんうん唸っている。どうやら魘されているようだった。
私は起き上がり、リヴァイを起こそうとして、一瞬思いとどまる。────こんなに魘されて、一体なんの夢を見ているんだろう。リヴァイは、寝ている時も起きている時も、いつでも何だか辛そうで、本当に可哀想だ。ついつい私も、悩ましげなため息が出てしまう。



「……おーい、起きろ〜」

「……う、」

「リヴァイ、リヴァイってば〜」

「……なまえ、」



リヴァイが私の名前を呼んだので、起きたのかと思って、返事をしようとした。しかし、依然としてリヴァイは呻き続けている。私は慌てて喉まで迫っていた言葉を塞き止めた。
危ない危ない。寝言に返事をしたら、寝ている人の魂は帰ってこれなくなると昔から言うし。よくわからないが、危うくリヴァイが永遠に目覚めなくなってしまうところだった。こんなに苦しそうなリヴァイを永久の悪夢の中に閉じ込めるなんてことは、流石の私にもできない。
悪夢。ああ、そうだ、忘れてた。リヴァイは今、恐らく地獄のような場所にいるのだ、はやく連れ戻してやらねばならない。しかし、その後いくら呼びかけても夢の世界にいるリヴァイには全然届かない。私を無視して普通に唸り続けている。
仕方ない……こうなったら……

最後の手段とばかりに両手をリヴァイの頬に伸ばし、思い切り挟んでたこ口にしてやろうとした時だ。リヴァイがばっと飛び起きて、お互いのおでこが思い切り激突した。



「ぎゃあ!」

「、……ってぇな………」



あまりの痛さにごろんと転がって頭を抑えながらのたうつ私を他所に、リヴァイは静かにむくりと起き上がると、額を軽くさすって、ぼうっとしている。石頭野郎である。
挙句、私の方を見て不思議そうにまばたきした後「何をしている?」と聞いてきたので、私は思わずリヴァイをきっと睨みつけるように見上げた。



「あのですね。あんたさんのせいで私も起きてしまったんですよ」

「何だそれは」

「りばいが────」



────りばいが、魘されていたから。
勢いでそう言いそうになったのを、ぐっと呑み込む。全くこの軽い口は、思ってもないことを適当にばら撒くだけでなく、言わんでいい余計なことまでぺろりと吐き出してしまうのだから、私自身も大変困らされている。
こんな話したら、間違いなくリヴァイは先程までの悪夢を思い出して、またずーんと沈んでいくだろう。そうしてまた、意味深なことを言ってきたり、千年前のことを思い出す素振りを見せたり、暗い目で私を見つめてきたりするのだ。
めんどくさい。普段ですらそう思うのだ。まして今は深夜、とてもじゃないが構ってる場合ではない。早く寝なければ私もリヴァイも明日が辛いだろう。



「寝ましょうね」

「おい、待て。言ってから寝やがれ」

「ぐー」

「てめぇ……」



唸り声と大差ないような低い声が私を追いかけるが、私は目を閉じて羊を数え、聞かぬ振りをして逃げた。安眠大事。安全第一。私は好奇心やなんかでいろんなことに首を突っ込みがちなところがあるのだが、何度も言うけれど、その渦の中に自分が巻き込まれることだけは御免なのだ。それに────リヴァイだって、あれだけ魘されるような恐ろしい夢など、思い出したくないに決まってる。それなら、話す必要もメリットも、お互いにないじゃないか。わざわざ思い出させる必要は無い。忘れるべきなのだ。悪い夢も、一千年前も、ぜんぶ。
私も早く眠るから、リヴァイも早く眠ってよ。そうして、どうか今度こそ、優しい夢を見て。一緒に、今日の悪夢を、無かったことにしようよ。

171207

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