3.Everything that one thinks about a lot becomes problematic.

「てめぇ……その使えねぇ脳みそは俺があと何度同じことを言ったら理解するんだ?」

「ごめんて」



またリヴァイが怒っている。私がスリッパを履かないで部屋を歩き回っていたからである。嫌がることをしてしまった自覚があるので素直に謝るが、正直なところ大したことじゃないと思っているので思わずさらりとした謝罪になってしまった。
私の実家では、スリッパを履く習慣がない。いや、辛うじて末妹が履いていたが、それも足が冷えるからという理由だった。私は冷え性ではないので靴下で十分だったし、やはりスリッパは履かない。客が来た時だけたまに見栄を張って履く。
そんなわけなので、ついつい長年の習慣からスリッパをどこかに置いてきてしまうのだ。それに比べて、リヴァイはスリッパを履かないと気が済まない。そして他人にも履かせたい。リヴァイは潔癖の気があった。本人曰く、潔癖ではなく単なる綺麗好き、らしいが、私から見たらだいぶ潔癖だと思う。



「えー、というか、リヴァイん家はみんなスリッパなんだったっけ?昔から?」

「……昔は違ったが、途中から、俺が履くようになって自然とそうなった」



初めは話を逸らすな、と言いたげにこちらを睨んでいたが、リヴァイは結局私の質問に答えることにしたらしい。リヴァイの返答に、私はますます疑問を感じる。絶対家庭環境の違いから来てる問題だと思ったのに。



「リヴァイの潔癖は一体どこから来たのかね」

「……もう一度言っておくが、俺のこれは潔癖なんて大層なものじゃねぇ。てめぇが部屋を汚くするところに問題があるだけで寧ろ俺の感覚は一般的だと思うが」

「え?い、一般的……?」

「いいからさっさと履け」



てめぇから見たら全員潔癖だろうよ、とぶつくさ言いながらリヴァイは私のスリッパを持って来て私に投げつける。まぁ私は別に履きたくないわけではなく、ただ忘れてしまうだけなので、ありがたく履かせてもらった。



「チッ……次はねぇからな」

「(この前も言ってたなぁ)」

「地面を裸足で歩かれたら、折角整えたベッドが汚れるだろうが」

「え〜地面て、ここは家だよ」

「馬鹿か?靴で歩いてる時点で……」



言いかけて、リヴァイははっとしたように自分の足元を見た。それから自分がスリッパを履いていることを確認したのか、僅かに動揺した顔で、額に手を当てる。息を呑んだ音が、聞こえたような気がした。



「……大丈夫?」



私がそう尋ねると、再びはっとしたリヴァイはこめかみの冷や汗を誤魔化すように拭って、疲れたようなため息を漏らす。



「……ああ、そうか……まぁ、あの時にやられるよりは、マシといえばマシだな」

「…………」

「だがそれとこれとは別だ。スリッパは履いてもらう。床に足跡がつくと汚ぇだろうが……」



リヴァイが気を取り直したように言った台詞は、私の頭を横切って流れて消えて行く。ぼうっとしたまま、私は思いを巡らせる。────ああ、また、千年前か。
最近のリヴァイの言動からわかってきたことがある。どうやらリヴァイは、自分が千年前から来た人間だと思い込んでいるらしいのだ。元々面白いとは思っていたが……私が理解していた以上に電波で、正直流石に戸惑ったりもしている。
でもやっぱり、大した問題でもないような気もして、私は結局深くは聞かないことにしていた。



「(……千年前)」



リヴァイの中での千年前、リヴァイの傍に私がいる。それは何だか、恐ろしいことのように思える。
もう一度言うが、彼が電波であることは大した問題じゃない。向き合わなくたって、私はこのままリヴァイといられるだろう。だから、知らん顔をしていたい。そうしてそのまま、はやくリヴァイが千年前の事なんて忘れてくれたらいいと思う。

171029

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