0.epilog

囚われない空の下を、自分達は走っている。
それは滅びゆく人類のためであり、自らの自由のための戦いだった。目の眩むような美しい風景と、行く手を遮る大きすぎる敵との間をすり抜けて、ただひたすら進んだ先の景色は────地獄というに相応しい色をしていた。
巻き起こる土煙、地響き、辺りに充満する血生臭い臭い、鋭い悲鳴、骨の折れる音、鮮やかな紅────そんな中に、彼女が、なまえが立っている。立っているのもやっとというような様子で、陽炎のようにユラユラと揺れている。
片腕を食われ、片脚を折られ、衣服を真紅に染め上げながらずるずると引きずるように体を動かすなまえが、空を見上げるのを、自分はただ見ていた。
光が、バシバシと目の前で明滅しているように錯覚する。チカチカする煩わしい視界の端で、もう届かない自分の手のひらが宙を泳ぐ。────遠い。あまりにも、ここから彼女までの距離は遠い。絶望の中、走馬灯のように彼女のことを思い返せば、どうしようもなく納得してしまえた。思えば彼女は、いつだって遠かった。助けられるつもりなどないという風に、いつも、遠くで笑っていた────そして、今も。なまえは、ボロ雑巾のような身体を引きずり、青い青い空を瞳に映しながら────穏やかに、笑っていたような気がした。

そんな彼女に、自分のものではない大きすぎる手が、もうすぐそこまで伸びていた。

180114

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