消えたエトワール
おれは今、大変緊張していた。
なにせ、一世一代の大告白を今からするのだ。緊張しないわけが無い。
「か、カリファ」
「なにかしら、ケイ」
今日もいつもどおり麗しいカリファは、顔にはらりとかかる髪を耳にかけ、こてんと首をかしげた。それがまた可愛くて色っぽくて、ごくりと唾を飲み込む。ぽっぽとほてる頬が鬱陶しかった。だからおれは、その熱を振り払うように、上ずりながらも声をあげた。
「おれ、か、カリファのこと、すっすっすきだ!!」
「───そう」
カリファは、一言だけつぶやいて紅茶をすすった。
それから一呼吸置いて、更にひとこと。
「私は泣き虫は嫌いよ」
「そっ…そんなぁ!!?!?」
ガーーン!!
あっさりと吐き捨てられた言葉に、おれは目の前が真っ暗になった……────
***
次の日。
おれは新聞を読んでいるスパンダム長官の前に、叩きつけるようにひとつの封筒を置いた。猫舌のくせにしっかり紅茶を冷ますことも出来ない可哀想なスパンダム長官は、今日もあちいあちいと騒いでいて、おれの方も封筒の方もろくに見ていなかった。
だからとうとう口で言った。
「長官おれCP9やめる」
「おうやめろやめ……ん!?!?なんだと!?今なんて………」
「おれ普通の男の子に戻る」
「いや、戻るってお前、養成施設育ちでそもそも普通だったことなんてねェだろうが」
「あ、そっか」
「おう。……ってそこはどうでもいい!!やめるだと!?!?駄目に決まってるだろうお前なにいってやがる!?まさかカリファにふられたから!?」
「うん」
「あっさり!そんなことで!なんて晴れやかな顔だ!」
あとで冷静に考えてみると、なんで長官が既にカリファに振られたことを知っているのか疑問だったが、その時のおれにはあんまり気にならなかった。
慌てたように騒いでいる長官が言うようにおれは晴れやかな気持ちで、新たなる生活のことで頭がいっぱい。正直そんなのどうでもよかったのかもしれない。
そんな調子でいるおれに長官は暫くうるさかったが、ふいに黙り込んだ後厳しい顔をした。
「いや、その前にだ。まさかこんな紙切れ1枚でやめられると本気で思ってないだろうな?」
「ん?」
「ん?じゃねぇよヴァカが!暗殺者だぞお前、それも世界政府直下の、天下のCP9だ!!存在していないことになっている闇の正義!お前自身が機密なんだよ!そんな奴をそう簡単に明るみに放り出せるわけねぇだろうが…!裏切りは死だとわからねえほど馬鹿だったか?!」
「えええそんなぁ!…わかった」
「わかりゃいいんだ」
変な事言ってごめんね、と言っておれは長官とあははと笑いあった。
じゃあおれこれから任務だから、と部屋を出ようとすれば、珍しく長官に「頼りにしている」みたいなことを言われる。フツーに嬉しかったから、るんるんでエニエス・ロビーを出た。
そして、そのまま帰ってくることはなかった。
160204
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