いちごの行方

「……!?」


聞いてくれ、おれは今自分の目を猛烈に疑っている。
何故って、今まさにおれの目の前で怪奇事件が起きたのだ。なんと、瞬きした瞬間にケーキに乗っていた苺が消えた。何故だ。
焦って辺りを見渡す。一体どこに…どこに消えるというのだ。因みにその苺に足は生えていない。
なら何処に…あたりを見渡しつつくるりと後ろを振り返ると。にやにやと随分楽しそうにしているジャブラがいた。

ガタッ


「てめえおれのいちご食っただろ!!!返せよふざけんな!!しね!!しねころす!!」

「ぎゃははははは!!」

「うるさいぞ。気を抜いていたケイが悪いじゃろう」

「カクもしね!!」

「死なん」

「いいからいちご返せ!返せ!!」

「もうジャブラの胃の中だぞ」

「悔しかったら取り返して見やがれぎゃはは」

「要らないよ!ジャブラの胃液まみれの苺なんてもう愛せない…」


じわりと視界が歪んだ。
おれの溢れんばかりの豊かな感情が零れ出てしまわないように、目をいっぱいに開いて真顔でただ耐える。
そんなおれをみて、ジャブラはまたものすごいたのしそうにニヤニヤしはじめた。たいへん腹が立つ。再びじわじわと怒りがこみ上げてきた。


「う、うぐ」

「おっ何だ何だ?また泣くのかよ」


わざとらしく顔をのぞき込んでくるジャブラなんなんだよまじうざいしねしね弱いものいじめすんじゃねぇこの、

ぽろっ


「お!」

「お!じゃねえよてめェうるせぇぇえうええええん何でおれのいやがることばっかりいいいいいい」

「ぎゃはははは!!」

「つらいよおおおもういやだこの仕事やめたいうわーーん!!!」

「うるさいわよケイ」


大号泣のおれに、容赦なくぴしゃりとカリファが言い放った。
かわいい。カリファは365日年中無休にクールで可愛いのである。秘密なのだが、実はカリファに恋をしているおれの怒りはその可愛さによって一瞬で引っ込んだ。


「…………うん、ひっく」


おいジャブラつまんなそうな顔してんじゃねえぞカス。そうして涙を拭きジャブラを睨みながらお茶に手をつけようとしたときだ。
フクロウがじーっとチャックをあけて、とんでもない秘密を漏らしやがった。


「チャパパーケイは本当にカリファがすきだー」

「なんでばらすんだよおぉぉうわあああん」


再び涙がおれを襲った。
カリファ目の前にいるじゃんバレちゃったじゃんなんで言うんだよ!!
おれの恋がいま終わりを告げた。おれの、おれの初恋が、いま。
涙が止まるはずもない。


「情けないな男の癖に」

「やかましいのぉ」

「びええええええん」

「大体てめーがカリファ好きなのくらいみんな知ってんだ狼牙」

「なんでだフクロウてめえええ」

「おれのせいじゃないぞー」

「お前さんが言って歩いてるようなもんじゃ」


そんな、そんなはずは!!
ばっとお茶を啜っているカリファを見ると、カリファはかちゃんとカップを静かに置いた。そして、淑やかで美しい手つきでおれのケーキにイチゴをそっと乗せると、あっけらかんとして言った。


「わたしは聞くより前から知ってたわよ、ケイ」


あんまりにも美しく、やさしい行動に、おれは見惚れてぼんやりした。
それからはっとして、しどろもどろになりながらも問いかける。


「……ひぐ、なんで知ってるのカリファ…」

「ケイの事ならわかるわ」

「カリファ…!!」


だっだっ…だいすきだ…!!
よく人のことを見ている、やさしいカリファ。女神のようだ。


「だれでもわかるだろう」

「なまえはあ〜わかりやすいんでェ〜よよい!」

「は?そんなことないだろ!おれフクロウとちがってばかみたいにお喋りでもねぇし!!」

「ふん…喚くのをやめてからいったらどうだ」


何だか久々に聞く声がしてそちらの方を見ると、ルッチがめっちゃ冷たい目でこっちを見ている。


「っ見んなよしゃべんなよ怖いんだよルッチよおおおお」

「また泣くのかよぎゃははは!」

「普通に失礼だな」

「なんだかんだ図太いやつじゃ」

「だまれ馬鹿野郎」

「てめぇええエグ、げほっ」

「うるさいわ、セクハラよケイ」

「ごめん!!」


151029

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