ごーいんぐまいうぇい

しゃりっ
じゃくっ
むしゃむしゃ


「…………」


がりっ
しゃくしゃく
もぐもぐごくり


「………ちっ…」

「………」(しゃくっ)

「………うるさい」

「………」(しゃくしゃく)

「…あああああああ!!」


僕が仕事中だというのに、いつまでたっても鳴りやまない小気味のいい雑音に、僕の我慢のメーターはとうとう振り切れた。
音源をじろりと睨みつけると、声を上げた僕のことなんてお構いなしだったそれは、やっとのことでやる気のなさそうな目線を此方に投げてきた。
ごくり、と言う音を最後に雑音がやんで、コンマ一秒おいてたるそうな声が一言。


「……なんですか」

「なんですか、じゃないだろう君 さっきから五月蝿くて僕が仕事に集中できない!」

「…?今日は至って静かで平穏だと思いますがねぇ…」


しゃくっ!!


「………」

「じゃみるはまのみみがびょーきなんひゃないれふか〜?」(しゃくしゃく)

「……だよ」

「あー?」(むしゃむしゃ)

「それだよ!!」


バンッと机を勢い良く叩くと、迷惑そうな顔をしながらまた林檎を大袈裟な音を立てて頬張るなまえ。
迷惑なのはそっちだというのが何故わからないのだろう、何なのだろうこのふてぶてしさは。
まず、こいつは僕に従わねばならない地位であり、すなわち僕より下の立場である。それなのに一体どうしたら僕の職務中に、僕の真後ろで林檎なんぞを頬ばれるんだ。


「それってどれです」


そう言いながらあー…と新しい林檎に齧り付こうとしているなまえ。どうしようもなく最悪のやつだ。
僕は立ち上がると、なまえの手から林檎を叩き落としてやった。
そして、「あ」とか言って転がった林檎に目を向けたなまえの首元に、剣をあてた。


「動くとその首切り落とすぞ」

「………」


ようやくおとなしくなったなまえに、僕の口角は上がる。


「動かずとも君の死罪は確定してるがね!!」


僕は剣をふった。
そして彼女の首は転げ落ち、奴隷が悲鳴をあげ、僕は笑う。


はずだったんだが。


それは空を切った。斬り損ねた時の妙な気持ち悪さが手元に残る。
なまえは何処に。周りを見渡す。いた。足元で、林檎を拾ってやがった。


「3分ルール余裕余裕(しゃくっ)うまい。うまいぞ」

「…………」


今度こそ、そう思ったのにまた殺せなかった。
そもそも動いたら殺すって言ったのになんでコイツは普通に林檎を拾いに行ってるんだろう。
しゃくしゃくしゃくしゃくと林檎を齧るなまえを睨みながらそう考えた。
こいつは腕は全く立たないくせに、生き残ることだけは大得意なのだ。安全だと確信しているから、上司の前でも林檎を喰らう。

拾った林檎を平らげたなまえは、くるりとこちらを振り返って、やる気のない目を細めて、笑った。そして、


「おいバカ、くいものを粗末にするんじゃねぇ、ころすぞ」


棒読みで、殺気と共に言い放った。


【マイペース従者】


「お、お前こそ死罪だ!死ね!くたばれ!!」

「構ってくださるのは嬉しいんですけど、そろそろ仕事に戻った方がいいよって思うんですよね」

「お前の林檎の音がうるさくて仕事が捗らないんだよ!」

「じゃあ桃にしますね」


140220
更正計画の元ネタ
どう転んで今に至ったかは不明です

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