冬待ち
窓辺にある椅子に乗り、肘をつきながら少女は曇り空を眺めていた。
憂鬱そうに欠伸をしながら、しかし絶対に空から目を離そうとはしない。
そうして足をゆらゆらさせながら、ただ真っ白な空を睨み付けている。
かれこれ一時間はたっただろう。そんな少女をじっと観察していた少年も、流石にしびれをきらし、彼女に声をかけた。
「なまえ、何故空を見ているんですか」
「…雪降らないかなって」
「どうしてです?」
「雪がすきだからだよ、だからこうして待ってるの」
そういう少女に、藍色の髪をしたオッドアイの少年は溜め息を吐く。
そして少女に歩みより、彼からすれば小さな身体をひょいっと摘まみあげた。
「相変わらず小さいですね」
「酷い。最低。そしておろして」
「クフフ…そんなに睨んでも雪は降りませんよ。昼寝でもして待ちましょう。寝る子は育ちます」
少女は空からやっと目を離し、少年を視界に入れた。そしてクツクツと笑う少年を睨んだ。
「待ってたいの」
「?何故です?」
「待ってなきゃだめなの」
「…?」
「ちゃんと、帰ってくるのを待つの」
そういって、少年をじーっと見つめる。
そして眉をさげ、目を伏せた。
「おかえりって言いたいの」
「おかえり…?」
「そう。去年ぶりに、私のところに帰ってきてくれるんだから」
「……」
「ほんとは、骸が今日帰ってくるって知ってたなら、」
骸に言いたかったんだよ。
そういってまた、眉間に皺をよせた。
「私が寝てる間に帰ってきたから一番に言えなかったの。だから代わりに雪に言ってあげるの」
骸は霧の守護者だけどさ。
「私、骸は雪にも似てると思うんだ」
「僕が雪…ですか?」
「似てるよ。寒くなったら突然ふってきて、ふわふわで、遊んでくれて、すぐ消えちゃうから」
少女は目を閉じた。
その顔には悲哀の色が浮かぶ。
少年も静かに目を閉じた。
「…クフフ、ありがとうございます。こんなに綺麗ではないですけれど」
「……?」
「なまえもですよ」
「え?」
「なまえも、雪のようです」
今にも泣き出しそうな少女を、少年はそう形容してみた。少し触れただけで崩れてしまいそうなくらい脆くて儚い、そんな彼女を一年も一人きりにしたことを密かに後悔しながら。
そしてまたすぐに彼女をひとりきりにしなければならない事を思い、少年は今持っている精一杯のやさしさを込めて微笑んだ。
少女は少年と再び目を合わせると、ぱっとうつむいた。そして頬を染め、照れくさそうにはにかみながら「一緒だ…」とつぶやいた。
少年は少しだけ顔を歪めた。そして、それが少女に見えぬようにしながら少女を椅子にそっとおろした。そして、自分も窓辺に寄りかかる。
「……待ってましょうか」
「え?」
「僕も君に言わなければいけないことがあったんです」
言いそびれたので雪に言いますね。
その言葉に少女の顔はやっと輝き、
それをみた少年も、ふたたび笑顔になった。
冬におかえり。120103
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