いっしょうけんめい

只今私は考え事をしていました。
本来私は考えるのはあんまり得意ではないので滅多にしません。私は忍足さん曰く単純で扱いやすいお馬鹿さんらしいのでして、ですから考え事は極力避けるようにしてました。
それでも今日は、気づけば無意識に考えていたのです。隣にいる、向日さんの事。

彼は今何を思っているのでしょうか。普段どんなことを考えているのでしょうか。朝起きた時、歯を磨いている時、ごはんの時、お風呂の時、学校の時、テニスをしている時、寝る前………
その、一日の内のほんの少しでも私の事を思いだし、考えたりしてくれているでしょうか。いいえ、答えは限りなくNOに近いでしょう。

私は彼とおつきあいをさせていただいてますが、そんな事を望む権利はないのです。
彼の時間を例えほんの少しであったとしても、私でうめてほしいだなんて考えてはならないのでした。
よくよく考えてみれば彼がいつもの様に笑ってくれれば、何であっても良いじゃない。太陽のように笑う向日さんが私は好きなのだから。
例え向日さんが、私の持っている愛情の半分も私を愛してなかったとしても私は100%を与え続けると、いつの日か決めたのでした。

それに向日さんは私以上に単純でお馬鹿さんだと誰かが言って居たような気がします。因みに扱いやすくは全然ないそうです。
それが本当なら彼は私のことをわざわざ考えようとはしない筈です。彼も、考えるのは苦手でしょうから。

向日さんらしいな。
妙に納得がいって、なんだか笑えてきました。私はそんな向日さんが大好きなのでした。結局この考え事は意味を成さなかったようです。やっぱり私は、考えるのが苦手だったのでした。
もうやめようと思い、顔をあげて向日さんを見ました。

とても、びっくりしました。


「うーん…?」


向日さんは小さく唸りながら、今まで見たことないくらい深刻な顔をしていたのです。
考え事でしょうか。何がこんなに向日さんの頭を悩ませているのでしょうか。私はとても知りたくなりました。
思わずじっと見つめていると、目が合いました。向日さんは目を細めて私を見ました。そして、


「なまえ、大丈夫か?」


そう一言私に問いました。一瞬何のことかわかりませんでしたが、しばらく考えて、私は気付きました。向日さんの頭を悩ませているものが何なのか。
途端に彼が愛しくて仕方なくなりました。嬉しくて嬉しくて泣きそうになるのを我慢しながらも私は笑いました。


「何でもありませんよ、」


そうして向日さんの肩に頭を乗せてみると向日さんは一瞬驚いた後、こてん、と頭を乗せてくださいました。


「ホントか?」

「ほんとです」

「なら良いけどよ。何かあったらすぐ言えよ」


俺もお前と一緒で考え事苦手だけど。一緒に考えたらわかるかもだろ?


…やっぱり。自惚れるつもりはありませんが、ここで疑うつもりもありません。
嗚呼、例え話であっても半分も愛して貰えてないだなんて、私は何て失礼な事を考えていたのでしょう。彼は私が柄にもなく考え事していたから心配して、私の倍に考えてくださっていたのです。
それなのに私ったらやっぱり、救いようのないお馬鹿さんですね。


「向日さん。」

「ん?」

「好きです」

「は!?」


急に肩を退けられて、向日さんの膝に頭がダイブしてしまいました。
驚いて彼の表情を伺おうと顔を上げかけたら「こっち見んな!!」と言って押さえ付けられてしまいました。レディに対して少々乱暴ですが、私はレディには程遠いので構いません。しかしちくしょう、顔がみれない。


「急に言うなよ、知っててもびびる」


多分この人、今顔真っ赤なんだろうなぁ。


懸命な愛情


私は、世界で一番幸せ者なんじゃないかと
バカみたいに錯覚しました。

2013.1.12

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