終わらない物語

何処までも広くて絢爛豪華な、まさに王子のために存在しているような城の最奥の一室。
今まで近づくことさえ許されなかったその部屋の扉は、今尚俺を拒んでいるようにデカくて、かなりムカついたので乱暴に蹴り破ってドアを吹っ飛ばしてやった。これでよし。


「あ、ジ……あれ?ベル?」


俺が中に入ると、今度は部屋の主が一瞬俺じゃない奴を出迎える。まるで招かれざる客のような扱いで超ムカつくけど、俺は今最高の気分だから許してやる事にした。いいんだ。これからは俺だけを出迎えるようにさせてやるから。
やっと会えた、超可愛い俺のお姫様。

最初からこうすれば良かったんだ。


「ししっ迎えにきたよ、なまえ」


俺がそういうとなまえは怪訝そうな顔をした。何言ってんだこいつ、とでも言いたげだ。更にムカつく。せっかく迎えにきてやったのに。


「何言ってるの?というか血だらけじゃない。死ぬの?」

「これ、王子の血じゃないし」

「じゃあ誰の?」

「わかってる癖に」


そういって肩に腕を回すと、なまえはジル様死んじゃったんだ。と一言。その言葉さえ、特に感情が籠ってるという様子でもなかった。
人や動物の生き死にに関して何か勘違いしてるというか、無感動なこいつは、やっぱり婚約者の死もどうでもよかったらしい。
大人からしたら俺らは実にガキらしくない。つーか元々ガキじゃねーし。だって俺、王子だもん。


「王子だもん、で済まされる問題じゃないと思うけど」

「何でだよ、っつーかお前ドキドキしないわけ?王子が肩抱いてやってんのに」

「私の婚約者ジル様だし」


あれ、やっぱ可愛くねー。
ジルの前では『はずかしいですわ』とか言ってたくせに態度違すぎじゃね。ジルがいなくなった途端これか。もう殺しちゃおっかな。
別に王子の妻こいつじゃなくても問題ねーし。まぁこれも今回は特別に許してやってもいいけど。もう1度言うが、今の俺はかなり機嫌がいい。最高の気分はそう簡単には害されなかった。


「つーかジルは死んだから。これからは婚約者俺な」

「ああ、そっか。でも次期王殺したんでしょ、ベルのティアラは没収だと思うんだけど」

「うっそ。やなんだけど」

「そんなの知らないよ」


そういって紅茶をすすっているなまえを見て、前に会った時とは本格的に性格が違うと思った。可愛くねーの。猫かぶってたわけね。ま、そんぐらいの方がおもしろいか。
面白いなまえとの結婚のためにも、ティアラ没収をどう免れようか考える。そこでふと思い出した。


「あ、」

「なに?」

「よく考えたらティアラ没収してくる奴なんていねーや」

「え、まさか王様も殺したの?」

「王だけじゃねーよ。もうこの城俺たち以外に誰もいないし」


みーんな、俺が殺しちゃったもんな。
くつくつ笑うと、なまえは顔をしかめた。
だから俺も笑うのをやめた。なに、今度はこいつ、俺になんか文句あるわけ。


「…なんだよ」

「紅茶のおかわりを持ってくる人がいないじゃない」


そういって空になったカップを指差し怒っているなまえ。
何だそんな事かよ。ししっやっぱこいつおもしれー。


「なぁ、ここから出ようぜ」

「本気?何処行くつもり?行く宛なんてないでしょう」

「じゃあお前此処に残るわけ?」

「いや?私はベルについて行くよ」

「あっそ。ま、トーゼンだよな」


壊れたドアからなまえをつれて廊下に出ると、人の気配がした。
あれ、この気配なまえの親父じゃね。なんでここにいんの。


「そういえば今日はお父様の来る日だったわ」

「マジかよめんどくさ」

「どうしよう、こんな殺人鬼と一緒に居るところ見られたらお父様を泣かせちゃう」


それどころか国に返されちゃうわ。
なまえはそう言って困った顔をした。俺も困る。なまえの国は遠い。連れてかれてはたまったものではない。


「……なまえ、超いー考えがあるんだけど」

「それって、面白い事でしょうね?」

「ああ。ちょー面白い」


俺がそう言えば、なまえは俺の手元を見た。それから笑みを深める。


「……いいわね。それ、私も借りていい?」



終わらない物語

運命は自分で“切り開く”もの。そうよね?
だって、ただ幸せにくらしましたじゃあ、つまらないでしょう。

120601
加筆修正170717

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