春の夜の夢の如し
※妖ウォ
「ねぇ、大好きだよ、ウィスパー」
「ワタクシもでございます」
ウィスパーは、私の言葉に紳士ぶった礼をしながらそう返す。それからすぐに嬉しそうに笑うウィスパーがかわいくて、私はとても好きだった。ずっと見ていたいと、そう思っていた。
「ごめんね、ウィスパー私以外に友達いないのに」
「ええほんとに…ん?」
「ぼっちウィスパー」
「なっ!!しつれーなぁ!あーたごときがひとりいなくなったって問題ありゃしませんよワタクシ友達多いですから!」
「ウィスパー、友達、いないでウィスーごほっ」
「あのー、弱りながら馬鹿にするのやめてくれません?やりづらいんですけど」
噎せた私に、ウィスパーは呆れたようにそう言った。もう別れの話で悲しむのは一通りしてきたので、このくらいでいちいち悲しい空気になったりはしない。むしろこの一瞬一瞬をいかに楽しく素晴らしい日にするか、私達にはそれだけだった。
「うう…ねぇ、ウィスパーすき」
「う、だから、ワタクシもです!さすがに恥ずかしいんでそろそろやめません!?」
「わかったよ」
「わかればよろしい」
「はぁ、私、やっぱり妖怪にはなれないかなぁ」
ウィスパーは、私の突然の言葉にきょとんとした後、当たり前だろうというふうに頷いた。
「そりゃもちろん。あなたの様な方にこの世への未練などあるはずもございやせんからね!」
「うん、ないよ、未練」
「それはよかった。ワタクシも執事妖怪としての使命を全うできたようですねさすが」
「いやウィスパー調子のんな。……ああでも、未練というか、ひとつだけ」
「?」
「また、妖怪みれたらいーなぁ」
「…………」
「ついでに妖怪とはなせたらいい、猫に生まれ変わったとしても虫に生まれ変わったとしても妖怪がみれて、またはなせたら、」
「あれほど妖怪を嫌っていた人間とは思えないようなお言葉ですねぇ」
「すきだよ、いまは、だいすき」
「それはよかった」
もっとはやく、好きになっていればと今は思う。人と違うものが見えることで、私は随分苦労をしたけれど、みんなに見えるものが正解じゃないのだとウィスパーが教えてくれた。ウィスパーは人間なんかよりも、ずっとずっと、ずーっと、優しかったから。
「ウィスパーは長生きなんだよね」
「ええ。あなた方よりずうっと長生きでウィッス」
「じゃあきっと、また会えるね」
「、…はい、モチロンです。またお会いしましょう」
ウィスパーがほんの少しだけ苦しそうな顔をしたのが、私にもほんの少し辛い。だけど、ほんとうにちょっとのお別れなのだ。ウィスパーが生きてきた長い長い年月に比べたら、私と過ごした時間も、私とはなれる時間も、きっと大したことない。そう思うと私は、今日も安心して目を閉じることが出来るのである。
160205
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