置き去りのリンドウ

空はこんなに青いのに、空気はこんなに澄んでるのに、今日は絶好のスポーツ日和なのに。私と来たら。今日も退屈だった。

つまらんつまらんつまらん。
つまらないったら、つまらないんだ。なんにも詰まってないんだ。からっぽなんだ。
高校なんてゴミだ。クズだ。楽しい事なんてひとつもありゃしないんだもの。中学校はあんなに、何をしようとしなくても楽しい事が向こうからやってきたというのに。
つまんない。つまんない。高校生活はからっぽだ。こんなに退屈だって知ってたなら私は中学校を卒業したりしなかっただろう。
まぁ、追い出されるんだけど。

つまらないというのはストレスだ。フラストレーションが溜まってしょうがない。
からっぽの心にイライラだけがつのって、八つ当たりして爆発させればまたからっぽになって、虚しくなる。
高校生活が始まってまだ2ヶ月。わたしはただ、その繰り返しで生きていた。友達はできたけれど、同時に友達ががくんと減ったのだからそんなの意味が無い。むしろマイナスだ。中学の友達は何かと忙しいようだった。

高校入学と同時に携帯電話を買ってもらった。最新式のスマートフォンだが、通話やLINEする相手がいなかったらただのゲーム機だ。つまらん。
私はちまちましたゲームが苦手なのだ。そう言いつつも、クソゲーをインストールして時間をつぶしてみたり。やっぱり今日も会えないのかな。あいつ。




「なまえ!!」



と思ったら、背後からずっと待っていた声が聞こえた。約二ヶ月前までよく聞いていた声だ。
待っていたくせに、私は知らん顔して振り返る。「なに?」なんて、相手からしたらお前の方が何だよ!かもしれない。
予想通り、私の目の前までやけに大股で近づいてきた日向翔陽はプンスカしていた。



「何じゃねーよ!俺のノートにへんな落書きしただろ!」

「してませんよ日向くん」

「してない?じゃあ誰が…」

「したよ」

「やっぱりしたんじゃんか!」



大体なんだよ!日向くんって!変!

ぷんすかぷんすか。翔陽はとにかく怒っているようだ。ぴょこぴょこしながら(私にはそう見える)私の隣までやってきて「もうやめろよな」と不満そうな顔でふんっと息を吐いて言った。



「だって、退屈なんだもん」



そう言って、虚しくなった。
ああ、ほんとに、退屈だ。
つまらないよ。翔陽。

あんたにはトスくれる人ができちゃったんだもんね。前は、私のところにも竜巻のように現れてトスくれトスくれ!って。そのときは、
私バレー部の癖にへたくそで、バレーあんまり好きじゃなかったけど。でも。
たのしかったのに。



「なまえ、高校つまんないの?」

「つまらん」

「そっかぁ」

「やる事ないんだもん」

「んー…あ!」

「?」

「じゃあさじゃあさ、女バレとか入ってみれば?」

「却下」

「ええ!なんで!?」



なんでって。そりゃ、決まってるでしょう。
「私は今バレーが心の底から反吐が出るほど大嫌いだよ、翔陽。」

にっこりとわらって。翔陽にそう告げてやりたかった。でも飲み込んだ。翔陽はバレーが大好きなのだから。
ああ、だからこそ、大嫌いなのだけど。翔陽に、そんな私のこと大嫌いと思われたくなかったの。言えない。



「……部活行きなよ」

「そりゃ行くけど!なまえが、」

「私が?」

「……いや、なんでもない!そうだ、今度俺が、バーン!!ってボール打つとこ見に来いよ!」

「はは、いつかね。部活がんばって」

「おう!」

「時間取らせちゃってごめん」

「もう落書きすんなよー」



笑って手を振って、走り去る翔陽の背を見送る。大好きだった光が今はただ無駄に眩しくて、まぶしくて気が滅入った。

ごめんね、翔陽。
落書きはするし、君がスパイク決めるところは一生見にいけないよ。
私はいつまでも中学生のままでいたいのだ。大人に、なりたくないのだ。
お前がきらきら楽しそうに笑ってるところなんて、これ以上見たら私は自殺してしまう。
それでも、翔陽に会いたいとも思う。中学生のまんまで。だから、幼稚だってわかってるけど。
こんな私をどうか否定しないでよ、ねえ。




14/5/12

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