一見いつもどおりの表情だろうが、ジャブラが気遣いのできる方でなかろうが、些細な表情の変化でどういう心境なのか、なんとなくわかるくらいには今まで近くにいたわけで。
「おう、何浮かない顔してんだナマエ」
「ジャブラ」
こんばんは。
ふっと笑ってそう言ったナマエの表情は、確かに浮かないといえば浮かない。
とはいっても、彼女は何か考え事をしているときはいつもこんな顔をしているし、大抵の場合何か考え事をしているので、やはりいつもこんな顔なのだ。それでも、浮かない表情だとジャブラは思ったし、ナマエはナマエで確かに浮かない気分でいた。
話を聞いてやろうと思ったジャブラが隣にどかっとすわると、ナマエはそれに少しだけ距離をあけて座り直す。それから控えめに自分のその、浮かない胸の内をあかした。
「ほんとうに、このしまはいつでもあかるいなって」
「あ?えらい今更だな。そりゃ不夜島だからそうだ狼牙」
あっけらかんとしてジャブラがいうと、ナマエはすっと目をそらしてぼやく様にいった。
「私達人間の身体は、朝は起きて、夜は眠るようにできてるんだよ。暗くなったら眠くなり、朝の光を見ると自然と目が覚めるようになってる。ということはこの島は本来人が生活するためにある場所ではないということだし、勝手にきてこんな所に住んじゃダメなんじゃないかな。」
そうおもうと、私はとても悪いことをしているような気がしてならないんだよ。
俯いて、悪戯をしてしまった子供のように気まずそうにしてみせるナマエに、ジャブラは思わず眉を寄せる。いや、悪いことも何も。初めて人を殺したときですら何も感じないような奴が何をと吐き捨てて笑ってやりたくもなった。自分達の殺しが正義の名の元にあるとはいえ。
ナマエという人間はのんびりしていてマイペースな割に、鋭く基本とても頭がいい。まるで食事でもするように情報を吸い取り、処理し、活用出来るのだから感服する。
しかし、代わりにどこかが何だかおかしかった。人と違うところに目をつけ、不必要な分析ばかりを繰り返し、独自の世界で生きている。
それでは才能が勿体無いと、彼女に英才教育を施したことによって彼女はいま秀才だが、彼女を自由に放置していたらただの馬鹿にしかならないだろう。
その証拠に教えられたことはしっかり覚えているが、理屈のない常識とか、そういうものに弱かった。人道もわからなかった。義理も人情もマナーも。
あー、頭いいと常識的はイコールで結ばれないんだなぁと、知らしめるために奴はいるんじゃないかとすらジャブラは思っている。
「ここは海王類のための場所だし、神様はきっとお怒りになっていつかこの島沈むんじゃないかなぁ」
「お前が神とか理屈のないもの代表を信じてるなんて俺は驚きだぜ」
「神様はいるでしょ。それが人とか他の生き物の姿じゃなかったとしても」
「なんでだよ」
「法則とか仕組みとかルールとか、そういうのを故意に作るって知能ある何かにしか作れないと思う。で、この世界は、それがあるから。きっとすごい頭のいい奴がこの世界をつくったんだ」
「あーはいはい、俺にはわかんねぇよ何言われたって。俺が不自由なく暮らせてるからここは人が住んでいい場所、それでいいだ狼牙」
「なるほど」
「おう」
「でも、ほんとは不自由なんだと思うよ。気づいてないだけで」
「面倒くせぇやつだな相変わらず」
良く言われる。
ナマエは笑っていた。誰かにとってはすこし寂しそうにもみえた。
141104
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