クロロ成り代わり | ナノ
フェイタンと仲良くなる話

【フェイタンと仲良くなる話】
※流星街時代
※捏造


フェイタンという男の子は、とても無口な子どもだった。
寡黙って感じではなくて、本当に文字通りの無口。いつまでたってもなんにもしゃべらないのだ。怖いくらいに静かで、ただ黙って近くにいた。
かろうじて声を聞いたのは初めてあったときだ。私がびっと親指で自分さしながら「俺クロロ!」といったら小さな声で「…フェイタン」と返ってきた。それっきりである。
それから流れで一緒にいるわけだけど、バリバリ警戒してるしとにかく喋らないし、それなのに気がつけば何故か私の近くにいて、じっと此方を睨むもんだから、ほんとに恐怖だった。
まぁ彼も身勝手な大人に捨てられここに来ているわけだから、態度としてはそれが正解で、こんなものなんだろうけども。



「…フェイタン」

「………」

「ウボォーさんたちが、ごはん取ってきてくれたけど」

「………」

「はい、これ」



何故か睨まれる。いや、ほんとちっこいくせになんて迫力…!
私視線で殺される…!やばい…!



「………」

「あ、毒とか全然入ってない…けど」

「………」

「そういうの、心配?」

「………」



フェイタンは何も言わない。これでいいのだろうか。何にも喋らないのが、正解なのだろうか。
フィンクスとは波長が合うようで、私といない時は割とフィンクスと一緒にいるみたいだけど、あいつも声を聞いたことはあまりないらしい。
ふむ…フェイタンは、フェイタン自身は、これでいいのか?改めてフェイタンを見てみる。
おおよその年齢の割に小柄な少年は、今も1人しずかにどこかを見ていた。まるで一人だけ、うんと遠くにいるみたいだと思う。この子の周りにだけ透明の壁があって、此方の言葉なんて聴こえていないみたい。…まさか、耳が聞こえないとかはないよね。
試しに背後から回り、ぱんっと耳元で手を叩くと驚いたように肩を揺らしていた。聴こえるようだ。
安心してホッと息をついたらかなり睨まれた。こわい。多分向こうも怖かったんだろう。悪いことした。ごめんなさい。

とにかくそんな感じで、フェイタンは結局何も語らない。
彼は普段、何を見て何を感じているんだろう。彼の中にある彼以外いないその世界では、どんな言葉を話すのだろう。この世界はこの通りゴミだらけだけれど、大事に大事に仕舞われたそれは、きっとひどく美しいのではないかと思った。
それを知りたいと思ったし、せっかく出会って一緒にいるんだから、ゴミの中で見つけた色々なものを、一緒に見ているこの景色を。そして、そこから生まれた楽しさやかなしさや苦しさを、少しでも共有できたらいいのに。とも思う。
そんな考えは、こんなひどい場所ではあまりに平和ボケしているだろうか。馬鹿だろうか。自分を明かすのはそんなに怖いこと?いつか命取りになるのかな。そうだとしたら、そろそろ慣れないと私、あっという間に食べられて死んじゃうかな…。そもそも、共有したくない人に無理にそれを押し付けるのもどうかと思う。
それでも、私はフェイタンを知りたいと思うのだ。つまり私はちょっとわがままで、まだまだお馬鹿で、早死に系女子だった。いや今は男子か。


それからしばらくたったある日のこと。いつも通り皆はそれぞれ生活するための物を盗りに拠点を出ていって、私はその日はお留守番係だった。
ちなみにフェイタンも一緒にお留守番係だ。沈黙がいたいよ…フェイタンはそこまで気まずそうじゃないけど私はやっぱり気まずいや…。
しかしまぁ、二人になれるチャンスなんて滅多にないので。せっかくだからこの機会を活かしてフェイタンとマブダチになってしまうというのはどうだろう!わっ名案流石クロロすてき!



「フェイタン、隣いい?」



テンション上がった私はフェイタンにノリノリで声をかける。
フェイタンはこちらをちらりと見たあと、視線を前に戻した。了承と受け取ろう…!
すとん、と一人分くらい隙間を開けて座る。そこまでは良いけど、さて何を話そうか。
フェイタンのこと知りたい。でもその前にこっちの素性を明かさなきゃ相手も話せるわけ無い。そういうものです…そうやって人の懐に入るって本で読んだ。どや。



「あのね、ここだけの話。まだ誰にも言ってないんだけど…」

「………」

「おれさ、前世の記憶があるんだ」



笑われるかな、と思いながらちらりとフェイタンを見るが、相変わらず何も言わずにぼんやり空を見ていた。安心して話を戻す。



「でも死んだ記憶がないんだよね」



何だそれ、とかつっこまれるかな、と思いながらもう一度ちらりとフェイタンを見るが、やっぱり変わらず上の空だった。え、聞いてない?私存在否定されてる?

…私はめげない!何故なら無視されるの慣れてるから!うわ泣きたい。



「寝ている間に死んだのかなぁ」



もうこの際ヤケだ。うるせぇ殺すぞコラって言われるまで隣でくだらないべしゃりを続けてやる!
クロロは、クロロはここにいますよーっ!



「だとすると寝るのってちょっと怖いよね。あ、でも今生きてる」

「………」

「フェイタンは、前世とか信じる?」

「………」

「そういえば前世で見た団体行動って競技がまじすごかったんだ、知ってる?」

「………」



そのあといくらどうでもいい事を喋り続けても、フェイタンはうんともすんとも言わない。
いや、ちょっと不快そうにこっち見たけど。この無視の仕方、他の奴等以上だ…



「……フェイタン、しゃべるの…きらいだったり?」

「………」



再びフェイタンがこちらを見た。私もじっと見つめ返す。



「もしそうなら、頷いて。そうじゃないなら横に振って。…そしたらもう、話しかけない」

「………?」



フェイタンは、どちらもせずにただ首をかしげた。…あれ、あれ?まさか、



「………え、もしかして、さ」

「………」

「言葉が……わからないの?」



フェイタンはちょっとだけ眉を寄せた。これはわかってるのか?わかってないのか?
わかってたらほんと変な事言ってごめんなんだけど、これはだって、なぁ。



「母国語が、ハンター語じゃなかったり…?」

「………」



フェイタンはやっぱり何も言わなかった。ただ、小さく首をかしげた。それが答えだった。
なるほど、そりゃあ喋らないわけだ…!!



「じゃあ俺、フェイタンがわからないのにべらべら話してた…ってこと?」



フェイタンは、相変わらず不機嫌そうに眉をよせて下を向いた。
その姿はいつもより更に小さくみえて、すごく申し訳なくなる。



「あー…ごめん」

「……?」

「あーっと、ごめんなさい!」



立ち上がってフェイタンの正面に回ると、勢い良く頭を下げた。
そして恐る恐る顔を上げると、フェイタンは黙って私を見たあと口を開いた。



「……すこし、喋れるよ」

「!!」

「たいしたことないはなしばか、いてることはわかた」

「えっひどいや……」

「あたまさげた、あやまたのもわかたね」

「うん…」

「ゴメン、言うか?」



こくこくと頷いた。するとフェイタンも納得した頷いた。何かじーんとくる。言葉が通じるって素晴らしいことなんだな…!



「ね、フェイタン、本好き?」

「?」

「あ、ちょっとまってて」



私は拠点の自分のスペースに駆けていくと、拾った本を持ってきて、指さした。



「これ!」

「…すきよ」

「!じゃあ、これ読んでハンター語学んでみない?俺、フェイタンともっとしゃべりたい」

「………」

「あと、俺にもフェイタンのしゃべる言葉教えて!」



首を傾げられる。ああ私ったら。へたくそなジェスチャーを加えてもう一度同じように話すと、単語の一つ一つから読み取ってくれたのか頷いてくれた。感動。



「え、ほんと?やった!ありがとう、フェイタン!じゃあ改めてよろしく!」



握手を求め手を差し出すが、それは取ってくれなかった。
つれない……涙目になるのを誤魔化すように「さ、早速やるゾォー!」と気合を入れながら本の積まれている所に向かおうとフェイタンに背を向けると、後ろから突然服の裾を引かれる。勿論引いたのはフェイタンなのだろうけど、何事だろう。



「?な、なにフェイタン」



振り返って、やはり小さな彼を見下ろす。その驚くほど小柄な姿を見て、また申し訳なくなった。ああ、こんなに小さい子が。何言ってるかわからなくて怖かったろうに。
黙って言葉を待っても彼は私に伝える事ができないので、私も必死に彼の言いたいことを考えてみる。
その間、フェイタンは視線を何度かさ迷わせたあと、



「………謝謝」



小さな声で何か言った。



「え?」

「何でもないね」

「ええー!?教えてよ!」



その後私が何度聞き返してもただ何でもないという。
そのうちあんまりにもしつこく訊いたもんでグーパンされた。勿論かなり痛かった。
マジ怖いわこの子。頬っぺたを押さえながら涙目でごめん…と謝る。
そんな私を鼻で笑ったフェイタンは将来ドS野郎になりそうだ。おお怖…!
今はこんなに可愛いのに、世の中やっていけない!

仕方ないので意味を聞くのは諦めた。
代わりに気になる…といって口を尖らせたらフェイタンは小さくふっと笑った。…………
フェイタンの笑顔………!!!はじめてみた!!
もういいや!それだけでじゅうぶんだ!!

130813
キレた時に咄嗟に出ちゃうくらいあの謎の言語が日常化してたなら最初フェイタンはハンター語喋れなかったんじゃ、という話。

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