クロロ成り代わり | ナノ
悪質なストーカーの話

【悪質なストーカーの話】
※現在よりちょっと前


ο月×日
今日もヒソカは私をガン見していた。
毎日のこと過ぎて、最近はそれにも慣れてきてしまったくらい。これは恐ろしい事だ。
慣れ程怖いものはない。異常な状態に慣れてしまうこと、それによって私のたいせつな常識は日々崩されているのだから。
あいつのストーカー被害に遭い始めてから一年くらいはたつだろうか。初めは勿論こんなに慣れてなかった。そろそろその時の感覚を取り戻さなければいけないと思う。

(クロロの日記より抜粋)




私は今、とても大変な目にあっている。
背後からはねっとりと絡み付くような視線、そして殺気。後ろのやつは明確な殺意を持って今日も私を殺そうと隙を狙っている。
これをどう見たら大変じゃないといえようか。そう、私は妙なストーカーに追い回されているのだ。
それも、悪質で病んでるなストーカーである。病んでるじゃなくてヤンデレだったら良かったのに。かわいいのに。
しかし残念ながらこいつはただの戦闘狂である。可愛さの欠片もない。ああ現実は厳しい。
まぁ何であれとにかくストーカーにかわりあるまい。ガン見して来たり着いてきたり、目があったらにこってして手をふってきたりトランプ投げてきたり後ろで興奮してたり……
ていうか何で私男なのに男のストーカー被害にあってんの、何なの、何なの。

運悪く近くに団員はいない。
みんな私の話は聞いてくれないが私を仲間としては扱ってくれるので、一応私を後ろのやつからいつも逃がそうとしてくれている。シャルでさえそうだ。
だが、今私はひとりなのだ。

後ろのやつの殺気、オーラが一瞬揺らいだ。
そしてそのあと一気に大きな殺気を放つ。私はその瞬間に駆け出した。
するとやっぱり後ろの奴も駆け出した。



「ウワー来るな!!」



そう叫んだところで犯罪者がやめてくれる筈もなく、後ろの奴…ヒソカは私を全力で追ってきた。
狐と兎、狼と兎、狩人と兎だ。どうやったって私は弱者だ。狩られる兎だ。私が兎とかなんかきもいな…今男だし大人だし尚更…
というか、そんなことを考えている暇はない。ヒソカは着実に私に近づいてきていてそれと同時進行で死へのカウントダウンは待ったなしに刻まれていく。
そうしてとうとう走馬灯っぽいものが見え始めた。何処からか、声も聞こえてくる。



『クロロが団長だな!』
『団長、仕事だよ』『団長今何か言ったかい?』
『団長逃げちゃだめだよ』
『あははっ見つけた!』『ほら、仕事仕事』
『みんなもうすぐ来るから』
『いい加減諦めなよ』
『悪い団長、聞こえなかった。また今度な!』
『遅いって!』『?団長何処行くか』『逃げたらアレだからね』



ロクな思い出がない!!
ていうか何だこのシャル率は、そして最後のアレって何だ、“逃げたらアレ”って言われて怖くて逃げなかったけど結局アレが何なのかわからない!

こんなんで死ねないよ!
私はとりあえず戸籍を手に入れて働いて結婚して一戸建て買って、老後は農家をやって暮らしたいの!無理って知ってるけど夢くらい見ていいじゃない!



「やめろよ!やめろよ!」

「……◆」

「おい聞けよ!聞…聞いてってばー!!」



生き残りたいと思った私はもう恥ずかしさとかそういうの考えず素で叫んだ。
そうしてすごい速さでアジト付近を駆け抜けて
いると、前方に救世主が見えた。



「あっマチ!!」



私が助けて!と叫ぶ前にマチは振り返った。
そしてギョッとしたように目を見開き後ずさって、その後キッと私の後ろを睨みつけた。



「ちょっとヒソカ、アンタ何してんだい!」

「マチっ!」

「おや◆」



私が勢い余ってマチの横を通り過ぎると
マチはヒソカの前に立ちふさがって念糸を出した。
ヤダ、かっこいい…!ヒソカはそんなマチを見て、降参と言うふうに両手をあげた。



「やだなぁ、そんなに怒らないでよ◆ちょっと鬼ごっこしてただけじゃないか◆」

「…本当だろうね」



えっ信じちゃうの!?
鬼ごっこっていうか私今デスゲームしてた気分なんだけど。
リアルな鬼ごっこしてたんだけど。私佐藤じゃなくてルシルフル…
結局マチはヒソカさんを信じてしまった。その上、邪魔して悪かったね、とか言ってきた。
いやいや、可笑しい。でも助けてくれたので御礼を言っておいた。ありがたい。
そこで冷静になって、自分がさっきみっともなく大声をあげていた事を思い出した。



「しかし…必要以上に大声を出してしまったな、すまない」



今更かなり恥ずかしくて俯く。
そしてちらっと二人に目を向けると、二人してきょとんとしていた。



「キミ、大声なんて出してたかい?残念、追うのに夢中で聞き逃しちゃった◆」

「あたしも聞いてなかった。珍しいね、団長の大声なんてあたし滅多に聞いたことないよ」



え………。衝撃的な事を聞いてしまった。
あんなに情けない悲鳴をあげてたのに、ヒソカは聞いていないらしく、
マチもタイミングが良いのか悪いのか私の悲鳴は一切きいていないらしかったのだ。
つまりヒソカの中には“誘き寄せて戦おうとした団長”、
マチの中には“変態奇術師と勇敢に戦おうとした団長”だけが残った。

ここでも私の特性発動してんの?
ていうかもう話を聞いてもらえないっていうか
私の声すらみんなに届いてないってことじゃん……!!!

そんな訳でみんなは私の本当に今日も気づいてくれることなく
私は今日もクールに盗賊団の団長をやっています。

あーあーそろそろコーヒーブレイクタイムかな!

130527

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