裏切りの話
【裏切りの話】
※現在
シャルが今日も私のところにやってきて、至極楽しそうに私に仕事をやれだのなんだの言ってきた。
こいつ、ホントに私に対しての態度が改まらない。この前みんなと「俺らの団長はクロロしかいないよ」とかなんとか言ってたが、こいつのは嘘だと思う。こいつは、私を団長と思ったことなんて一度も…
「…ないだろう」
「え?」
「俺を、団長って思ったこと一度も」
「……」
「本当はお前が団長をやりたかったんじゃないのか」
私が真面目な声でそういうと、シャルは目を丸くした後、無表情になった。
少しだけビビる。シャルの無表情はマジ怖い。何でか知らんがマジ怖い。と、私が若干怯えていると、
「…………っくく」
「!?」
「ふっ…く、はは、あはははは!」
「なっ…何笑ってるんだ?」
「あは、あはははは!!」
「気が違ったか…!」
突然笑い出したシャルを見て、やべぇとうとう気狂いに…と思ったがシャルには実はよくあることなのである。
こいつはよく一人で笑い出す。そしてその理由を中々明かそうとはせず、しばらく一人で楽しむ。そういうやつなのだ、こいつは。
しかし今回はどうも様子が可笑しい。
「ふふっ…ばれちゃったね」
「え…!?」
「仲間ごっこももうおしまいか…クロロ」
「ど、どうしたシャル、そんなベタな台詞を…」
「団長と思った事がない……そうだね、確かにそうだ。だから今までお前を利用してきたんだよ」
「シャル…!?そんなにハッキリ言わなくても…!」
「お前は誰にも相手にされないから、ふふっ簡単だったよ。案の定みんな気づいてなかったしね。この前は少しひやひやしたけど」
そういってくすくす笑いながら、シャルは突然マントもないのにバサッと早着替えした。
なんて、なんて技術だ…!!
私が感心していると、魔王っぽい格好に着替えたシャルは、椅子に座る私の手を引き普通に椅子から立たせて代わりにそこに座った。
蹴り落とすんじゃない所が妙にやさしい。そして、服のセンスがもう人格を疑うレベルで酷い。言葉にできないほどにヤバイ。なんだその刺々しい肩パッドは。何だその服の色は。そのセンスがもう怖い。
しかしそんな私の心中を知らずにシャルはにこりと私に微笑んだ。
「ありがとね、今まで」
「はぁ…」
椅子に座り、足を組んで頬杖をつきながらそういうシャルと、それを気をつけしながら聞く私。今までにない新しい図である。
っていうか、ということはあれ…私解放されるじゃん!!やった!!
しかし、喜びもつかの間。
「これからも頑張ってね」
「えっ今退かしたのに、」
「誰がやめていいって言った?」
「何お前突然堂々と偉そうにしてるんだよ」
「だって、カミングアウトしたから」
「いや、そんなはっきり言われたら流石に私やめるよ。バイバイシャル、あ、新団長?おめでとう、お元気で」
「待てよ」
「え………あっ」
私が振り返ろうとした瞬間に背中にチクリとした感覚。何か、針のようなものが刺さったみたいだ。針ってか、これアンテナじゃん…!!
しかし幸いまだ浅く、服に刺さっているような状態だったので、慌てて抜こうとしたが、背中届かない。
「と、とど、か、ない…っ!!」
私が手を必死に伸ばしてるのを見てシャルは一通りゲラゲラ笑ったあと、立ち上がり魔王のごとくゆっくりと近づいてきた。
「ちょ…シャル?」
「………」
「そんな…なあ、嘘だろ?利用するならまだしも、無理矢理操るなんて…」
「………」
「しゃ、シャルはそんな事、しない!お前シャルじゃないな!」
「…言っただろ?仲間ごっこはおしまいだって」
「そんな…あんまりだ、こんなのってないよ!」
私がその場にへたりこむと、シャルも私の前に膝をついた。
そして、最後と言うように私をやさしく抱きしめ、甘く優しい声でいう。
「バイバイ、クロロ」
「シャル…俺はお前を恨むよ。ヒソカより数倍最低な裏切り者だ…」
「そう、まぁいいよ。どっちにしろこれで旅団は俺のもの」
「………っ」
「それじゃあ、いい夢を!」
背中に、アンテナが刺さった。
……………
「……はっ!!!」
目を開け、ばっと起き上がると、私はいつものように椅子に座っていた。床には本が散らばっていて、いつもどおりだ。
そして、そこにいつもどおりやってくるのは、
「団長!仕事仕事!!」
「……っ」
「ん?団長どうしたの?」
「っこの、シャルナーク!!!」
「!?」
私はシャルにとびかかった。
そして肩を掴むとぐらぐらと揺さぶる。
「お前っ可笑しいと思ってたんだ!!裏切り者!!」
「えええええっ?なっなんのはなしっ?」
「とぼけるな!裏切り者!魔王!アンテナ!早着替え!やさしいやつ!あと、私の椅子!!」
「えっちょっと話が全然読めないんだけど!」
「あとっ…!」
「え、まだあるの?」
「服のセンス超絶悪いなお前!!」
「はぁ!?ちょっ団長何寝ぼけてんだよ!!起きろってば!!」
ばこーん!!
…………
「…ほんっと意味わからないんだけど!変な夢見るなよ!」
「ごめんなさい」
土下座マスターの私が綺麗に土下座をすると、シャルは拗ねたようにふんっとそっぽを向いた。
そして小さな声で、ぼそりと言った。
「いくら俺でも…さすがに団長を裏切ったりしないし、俺にとっても団長は団長だから」
……………
えっ…なんかじーんときた…!!
これも夢かな……!
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