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【3】
「団長、やろうか」
「えっ」
私がいつもの様に静かに本を読んでいると、突然真横からねっとりした声が聞こえた。
ばっと声のする方を向くと、目の前にドアップヒソカさんのにっこり笑顔。
きもすぎて思わず勢いよく身を引く。腰がぐきりっていった。えっ、私まだ26歳。
色々な意味で慌てる私を見て、ヒソカはこてんと可愛らしく(全然可愛くない)首をかしげてみせた。
かわいくないから!
それが本音だがそれを言うといろいろあれなので私もとりあえずへらりと愛想笑いしておく。
あれっていうのはアレだ。怖いんだ。
ヒソカ怖いよ。まだ笑ってるよ。変態くさいよ。
「僕、待ちくたびれちゃった◆キミとやりたいなぁ」
「いやです」
私は断った瞬間に跳んだ。
私が座っていた所を見ると、やはりトランプ。跳ばなかったら刺さってた。
前から思ってたけどどうなってるんだそのトランプは。お前の手は切れないのか。
まあ今はそれはいい、とりあえず助かった。そうして小さくため息を吐いた。その時だ。
次の瞬間、ぶわっと鳥肌がたった。嫌な気配。まがまがしくて、吐き気がするオーラ。
そのオーラをたどると……
「ヒソカ…」
ヒソカさんがさっきの気持ち悪い笑顔の比ではないようなヤバイ顔をしていた。
えっ、どうしよう泣きそう。何あれ、怖すぎだろ。
そうして動けなくなった私は、更にやつの下半身に、見てはいけないものを見てしまった。
「ヒソカ……!」
おまえ、それ…!!
ズギューンじゃない。わたしにトラウマ植え付ける気なのかこいつは!!勘弁してほしい。
何故だか性的興奮に浸っていらっしゃるヒソカ。いやどこにそんなシーンがあった?
本当にドン引きである。前から引いてたけど。お前もう故郷に帰れよ……
「やっぱり、キミはキミだね…◆これでも心配したんだよ?
あの日、泣いてたキミを見て僕はもうキミと楽しくやりあえないって◆」
いや今もやりあわないよ、私戦い嫌いだもん。
そもそもお前団員だよね?堂々と団長に反抗するんじゃないよ!
そう思っているうちに、ヒソカは突然服を脱ぎだしだ。
そして更に突然ベリィッと背中の皮を剥がしたのだ。突然の露出行為と自傷行為に私は目を剥いた。
ほんっとないわなんなのお前。グロ。と思いうんざりしながらヒソカの手を凝視すると、手にある皮だと思っていたのはよくみたらただの布だった。
手品が大好きなのはわかるが、突然披露しないでほしい。意味がわからない。
最早ついていけないなぁと呆然としていると、ヒソカは変わらずドヤ顔で色の白い綺麗な背中を見せつけてくる。いい加減うざい。
何かを期待するような目でじっと見つめてくるヒソカに、なんだよ、とガンを飛ばしたところでようやくおかしな点に気づいた。
…ん?待て待て、お前、え?なんだその綺麗な背中!
蜘蛛の刺青どうした!!
「えっ、え?」
「これでいいだろ?◆」
「いやいや良くない。え、………どういう事だ?」
「…まだ解らないのか◆」
「いや…え?何、団員じゃ、ないってこと…?」
「……当たり◆」
にやりと妖しく笑ったヒソカは、またトランプを投げつけてくる。
私はどう避けようか考えて、結局のけぞった。ぐきり、悲鳴をあげる腰。
「ギャーーー!?」
「…!?」
「えっいたいいたいいたい!!助けて!!」
のけぞったまま悲鳴をあげる。やばい立てない。やばい。
そしてそのままブリッジの状態で叫ぶ私を呆然と見ているヒソカ。
端から見たかった、とてもシュールだろう。どうして私はいつも当事者なんだ…!!
そうしてまた泣きそうになってきた時、
「えっ………、ちょっとヒソカ、何やってんだい!?」
「団長!!」
「大丈夫ですか?」
素晴らしいタイミングで旅団女性陣登場。
パクは素早く駆け寄ってきて私を起こすと、ヒソカを睨んだ。
シズクとマチも、既に戦闘体制だ。たっ頼もしすぎだろ……
私何でいつも女の子に助けられてんだ…?
「あんた、刺青は?」
「さぁね…◆そんな事より退いてくれるかい?僕は団長とサシで闘りたいんだ」
「俺はサシで闘りたくない」
「やめなさいヒソカ、団長は嫌がっているわ」
「…団長、この人どうします?」
既にデメちゃんを出しているシズクが振り返って私に問う。
どうしますって言われても…君闘う気満々じゃない……ありがとう!!それじゃあヒソカさんに永遠におかえりいただいて!!
と言いたいところだが、戦闘になればお互い無傷では済まないことは目に見えているので、できれば闘わないでほしいのが本音だった。
ピリピリとした空気の中、どうしたものかと考える。すると、しゅるりと対峙していた禍々しいオーラが突然消えた。
「……やめた◆」
「………え?」
「僕が見るに、キミはまだ完全復活していないようだ。そんな情けない状態の団長と闘っても意味がない◆」
ヒソカはトランプをしまった。
「僕は旅団をぬけるよ。そしてもう少し待ってあげる。キミが、いつものキミに戻るまで◆」
「いつものっていうか、これが通常というか…」
「その時またくる◆歓迎してくれよ?」
「二度と来ないでください」
「そうだよ、二度と団長の前に現れるな」
「次来たら通報するわよ」
いやいや通報って私達も犯罪者だからね!?
意気込みとしてはバッチリな彼女達を見て、ヒソカはクククと笑うと
そのまま踵を返して何処かへ去っていった。
私は、ほっと息を吐いた。一年…長かったな……
こうして、逞しすぎる女性陣の働きによりヒソカという名のストーカーを追い払うことに成功した。
しかし脅威はまだ過ぎ去っていない。あいつ、次は私が一人でいるとき狙ってくるだろうな……
しばらくの間皆と一緒に行動するしかないか。私は大きな溜め息を吐いた。
三人はそんな私を気づかうように
ポンと肩を叩いたり頭を撫でたりしてきた。
何だろう、これ………
130511
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