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【2】
「団長」
ふと、未だに違和感のあるその名前で呼ばれ、顔を上げると、すぐ目の前に何ともいえない顔をしたフェイタンがいた。本に夢中で気づかなかった……
これは私の一回の死を意味する、らしい。私が油断していた時にシャルがよく言う言葉だ。
こういう場面を見ると、団長今死んだね、とにこやかに告げるシャル。いい加減そんな怖いこと言うのやめてほしい。
そう言ってもシャルは私の嫌がる事を言うのが好きなのでやめてくれない。このやろう……
思い出してイライラしていると、フェイタンが小さく首をかしげた。
「あっ…ああ、何だ?」
慌てて返事をする。考え込んで周りの事をほったらかしてしまうのは、前世からの悪い癖だ。
やっぱり生まれ変わっても、クロロ=ルシルフルになっても、結局私は私らしい。
息をつく私をフェイタンは特に気にした様子もなく、ただ視線を泳がせた。あれ、も、もしかしてこれは、団長どんくさいとか思ってる…!?
いや、フェイタンの事だ。どんくさいなんて生温い悪態はつかないだろう。もっと、もっとひどい事に違いない……!ひどいよフェイタン!
私がショックを受けていると、フェイタンはとうとう口を開いた。私は身構える。
しかし、聞こえてきたのは、予想と真逆の言葉だった。
「────すまなかた、」
「……え」
「団長命令、無視した事」
「………うん?」
…………えっ、フェイタン今謝った?
あの、拷問狂で、短気で、いつも機嫌の悪い、フェイタン様が…!?
や、確かに昔から私には割と素直だったけども……それでもこれは事件だ…謝られたのは初めてだぞ…
昔、皆で鬼ごっこしてたとき、フェイタンがマジになって私は怪我負わされた事があるけれど、あの時この子知らん顔だったぞ………
……あれっ別に前からちょっとも素直じゃなかった!?じゃあ大事件じゃん!!!
「えっ、いや、え?……な、」
「?」
「何か変な物でも食べたのか…?」
ガチで心配になったので尋ねると、フェイタンは顔をしかめた。
フラグが立った!?
「いっいや、フェイタンが変な物食うわけないよな」
こくり、と頷かれる。私もゆっくり頷いて、ほっと息を吐いた。
団長、権限無さすぎだろ…………
「とにかく、すまなかた」
「うん…」
「ただ、ワタシも前から団長に言いたかた事あるよ」
「うん?」
フェイタンは難しい顔をしていた。私は少し首を傾ける。
ああ、絶対可愛くないな…。自分の行動にちょっと後悔していると、フェイタンは小さな声で言った。
「指令…」
「?」
「小さな事で良いから、もと出して欲しいね」
「………」
あれ、私…フェイタンにお願いされてる……!?
指令。確かにオリンピック並みにレアなイベントになりつつあるものだけど……
でも今回はまだ2年くらいしか空いてなかったはずだよ?フェイタンがわざわざお願いする程のものでは、
「3年2ヶ月…」
「え」
「流石に長いね、ワタシ待ちくたびれたよ」
拗ねているらしくむすっとしているフェイタン。いや、いつもか。
ていうか、え、そんなに経ってたんだ。あと一年は大丈夫かなとか思ってた。
マジでオリンピックだわ。てかフェイタンすごく細かく覚えてるんだなぁ!何て言うか、うん…
「悪かった…」
フェイタン、もしかしてカレンダーとか見てちゃんと数えてたりしたのかな。
そんなに楽しみにしててくれてたなんて、知らなかったなぁ……流石の私も罪悪感がわいてくる。
「…次、いつか」
「そうだなぁ…」
大暴れしたいだけかもしれない。
それでも、少しでも団員に会いたいと思ってそういってくれているのなら、私はそれに答えたい。答えるべきだ。私だって、本当はみんなにもっと会いたいんだから。
フェイタンは小さな事で良いと言ってくれた。それなら、私だってできる。
「本当に小さな事でも良いなら、すぐにでもまた集めるが」
「ワタシ達は足よ、団長の命令ならどんな小さな事でも動くね」
フェイタンは笑った。私も笑った。
よし、今度の指令は植木のボランティアに決定だ。
130506
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