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【1】
みんなとの絆も今までと大して変わらないまま今回の一連の騒動が落ちついた頃、そういえばイルミと喧嘩(?)してそのままだったのを思い出した。
そして、折角今気分が良いので私から仲直りしてあげようと思い至ったのだった。
つまり観光も兼ねてゾルディック家に訪れているなう。広いお屋敷にテンションがあがり、スキップしながら長い廊下を歩いていると、今日も髪の毛をさらさらとなびかせている目的の彼を発見した。
あいつはシャンプーのCMにでも出るつもりなのだろうか。とりあえず駆け寄った。
「イルミ!」
「うわ」
う、うわ…だと…!?出会い頭にうわって酷い……
しかし私はめげない、慣れてるから…!
「何だその態度は、俺は客だぞ」
「客?不法侵入者のくせに?」
「いやそれはだな、俺は悪くないんだ。この家が可笑しい」
だって本当に可笑しいだろ!
何で友達って言ってるのに聞いてくれないんだよ!
ていうかそもそも私の言葉すら聞いてなかった!
あの執事さん達可笑しい!!
「まぁ試しの門はくぐってきたみたいだから良いけど、でも人の家だから」
「可笑しいといえばあのミケとかいう奴も可笑しい!」
「お前もたまに人の話聞かないよね、煩いんだけど」
「怖かったんだよ!あいつ、俺は試しの門くぐったのに追いかけてきやがったんだ!」
そう、普通に押したら開いたから入ったら、急にミケとかいうでかいペットに追いかけられたのだ。
また死にかけた。何処からか現れたあのおじさんがいなかったら私は今頃御陀仏である。
おじさんは暢気に、なつかれたんですかねぇ、なんて言っていたがあれはどう見ても狩りをする時の目だった…狩られる…怖い。
「なめられたんじゃない?そんなだから」
「えっいや、しつけがなってないんだ!」
「はぁ…煩いな」
「しっかりしろ飼い主!」
「はいはい、ミケにはよく言っておくよ」
イルミは小馬鹿にしたようにちょっと笑ってそう言った。しつけをする気は少しもないようだ。ちくしょう…
「それで何か用?まさかそんな事言いに来たんじゃないよね」
「あっはい」
「お前と違って忙しいんだから手短に頼むよ」
「俺が暇みたいに言うな」
「あれ、違ったんだ」
心底驚いたような顔をするイルミに私は心底腹がたったが、今はそんなやりとりをしにきたのではない事を思い出したので黙った。
私はイルミと仲直りしに来たのであり、喧嘩しにきたわけではないのだ。
「イルミ、」
「何?」
既に私から目を離して携帯をいじっているイルミが
何処かの誰かさんと重なって殺意がわいたが、私はぐっと我慢した。偉い。
「イルミは全然話きいてくれないし、今も携帯いじって真面目に聞いてないみたいだけども」
「へぇ、そうなんだ。面白いね」
「……………うん、だけど、」
「あーうん」
「これからもさ、その、と……友達で……いてください」
恥をしのんでそう頼んだ。かなり恥ずかしい。こんなの初めて言った。
そんな私に、イルミはやっと顔を上げたかと思うと、一言。
「は?」
意味がわからんといった顔で、たった一文字そう言った。
えっ…何、怖いんだけど……
「…えっ」
「え?何、俺達って友達なの?」
「いや…それでいいってお前が言ったんだろ」
「いや、あれはめんどくさかったから言っただけ。本気にするとは思ってなかった」
「ええええっひどい!!!そんなのってあり!?シャレになんないって!!」
「や、シャレじゃないしね」
「うっ………でっでも!!俺はもう、とっくに友達だと思ってたから!!」
「そうなの?」
イルミは無表情のまま、顎に手をやって考える素振りをした。
そしてしばらくしてから、困ったような声でぺらぺらと喋り出した。
「そうか…俺たち友達だったんだ。暗殺者に友達は一番いらないってキルに言ったばっかりなんだけどなー…まいったな、これじゃ示しがつかないや。俺が嘘つきって事になってキルに嫌われちゃうよ」
奇妙なくらい喋りつづけるイルミを見て、私は嫌な予感がし、冷や汗が垂れた。
そんな私に構う事なくイルミは勝手に話を進め、最終的にすごくいい事を思い付いたように生き生きとして言った。
「そうだ、お前を殺せばいいんだ」
「え」
「というわけでさ、悪いんだけど俺とキルの為に死んでくれない?」
「ええええ!?嫌だよ!!」
「友達だろ?たまにはこれくらいの頼み、きいて欲しいな」
友達という部分を強調しながら針を持って私に詰め寄ってくるイルミ。
こいつ、友達というものを誤解してやがる………!
今にも私の頭に針を刺してきそうなイルミ。
本気の目(多分)が怖すぎて、私は折れた。
「いっいいいや!俺はお前のビジネスパートナーみたいなもんでっ友達ではなかった!断じて!」
ほんとに油断も隙もない。ちょっとした事で人殺そうとするんだから…
そういや相手は暗殺者だったよ。そんなのと友達になろうなんて私もどうかしてた。感覚が麻痺してきているようだ。
しかも暗殺者に加えてこやつはブラコンなのだ。キルアとこの前ちょこっと話したのとか伏せといた方がいいな…
「え、そう?」
「ああ、うん」
私はこくこくと何度も頷く。
イルミはそれを見て小さく息を吐いた。
「なんだ、よかった」
「ああ……ん?」
「なに?」
私が声をあげた事で、こてんと首をかしげるイルミ。人形みたいな彼には、なんだかよく似合った動作だと思った。
しかしながら……
「…よかった?」
「何が?」
「いや…」
私が何でもないと言うと、こいつ大丈夫かという目で見られたが、それは今はなかった事にしておく。私は、イルミの言葉を小さく繰り返した。
「“よかった”…」
それってつまり、イルミは、本当は俺を殺したくなかったのかな、なんて。
「何にやにやしてるの、殺すよ」
「あはは、うん」
「だから、それやめろって言ってんだけど。腹立つ。お前を殺したくないんだ」
素直に言った…だと!?
クロロは感動だよ…!!
「いっイル「お前の血で服が汚れるとか何か嫌なんだよね、汚い」なんだと!?」
この私の血が!?めちゃくちゃ規則正しい生活してる私の血が汚いだって!?
馬鹿いうな、じゃあ何のために嫌いな野菜食べてるって言うんだ、何のために早寝してるって言うんだ!私の血は絶対綺麗だと思う。私は自信をもって献血できるのだ。
「良いかイルミ、俺が健康のためにどれだけの…」
「何かクロロ、前よりうざいね」
「ひどい!」
「変なものでも食べた?可笑しいよお前」
「へ、お………うん………」
私の本性は、そんなに可笑しいのか…
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