素晴らしき終幕
パクに手を引かれながら私がアジトに帰ると、みんなが待ってました!と言わんばかりに一斉にわぁっと寄ってきて、嬉しさの3000歩前くらいに驚いた。嬉しさにはまだまだ遠い。
え…だってお前ら、そんなに団長の事慕ってたっけ…?
「よかった、お帰り団長」
「何もされてませんか?」
不自然に優しいみんな。一体どうしたんだ。寧ろお前らが何かされたんじゃないのか。誰かに操作されてるんじゃない?
若干心配になるが────これは一応、素直に喜ぶべきだろう。決意したとおり、やっぱり私はまだ旅団にいる。みんなともっと一緒にいたい。
それに、既に盗みも殺しもする最低な集団だけど、私が団長をやめたら、皆は今まで以上に堕ちていってしまう気がした。私以外に、誰がやめるよう訴えるだろう?そんなの誰もいないのだ。
皆、本当は仲間想いのいい奴なのに、そうしてどんどん悪くなって、いつか今回のクラピカのような人に今度こそ報復されて死んでしまうのは、嫌だ。
私はみんなが大好きだから、そんなこと絶対にさせない。
私を囲む仲間を見渡す。みんなとても心配そうな顔をしていて、じんときた。
やっぱり私たちは何だかんだ言っても数多の仕事を共にこなしてきた、大切な、仲間なんだ……!!!
「団長、おかえり」
「ほんとによかった、無事に帰ってきてくれて」
「掟の剣とか刺されてねぇか?」
そう言ったノブナガに、そういえばと思い出す。
クラピカ、レオリオ、センリツ。せっかく私はあの心優しい三人と仲良くなれたのだ。みんなで仲良くできれば最高じゃないか?
そう思い、せっかくなので紹介することにした。
「あ、うん。鎖野郎は良い奴「それにしても団長傷だらけじゃねぇか!」
「やはりパクに着いていくべきだたよ、許せないね」
「いや、それが誤解で「今から行くか!!」………うわーん!!」
はいやっぱりみんな聞いてくれないというね!!
ショックでぶわわと涙が出てくる。私達やっぱり仲間じゃないんじゃね!?弄ばれた!!
こいつら今回の事全く反省してないぞ……もしかして、もしかして私が団長やってもまたみんな暴走して止まらない、即ち意味がないということでは?
挫けた…もう…無理だ…希望もいる意味もない……
「ぐすっ私実家にかえ「ちょっとみんな!」ぱ、ぱく…」
また、かぶったね…!!
「どうしたパク…うおっ団長泣いてるぜ!」
「!?どうしたんだよ」
「大丈夫?」
みんながあわあわと慌て出し、コルトピが無言で
スッとハンカチを出してくれた。ぐすっ可愛いね…!
そしてパクが私の背中をぽんぽん叩きながら、私の想いを代弁してくれた。
「私も無かったから、皆も自覚はないでしょうけど…団長が今まで必死で私達に話をしようとしてたのを私達は聞こうとしてなかったの。だから団長は今泣いてるのよ。子供の頃だって一度も泣いたことは無かったのに」
パクはそう言ってみんなに語りかける。うん…実は子供の頃から結構な頻度で泣いてたけどね……
それすら気づいてもらえなかったんだね…影が薄いってわけじゃないと思うんだけどな。いろいろ思い出していると、また悲しくなって涙は溢れる。
そうして、とうとうしゃがみこもうとした時。
「団長、悪かった」
「全然気づかなかったぜ…」
「私も気づかなかった。ごめんなさい」
みんなが、すごく申し訳なさそうな顔で謝ってきた。
そしてマチが頭を撫でてきたり、ノブナガにぽんぽんと肩を叩かれる。
みんな、やっぱりほんとにやさしくて。
「………ぐすっ…うん」
私は、やっぱり許してしまった。
しかしその時、ふとシャルナークを見て再び怒りがわいてきた。
彼奴は一人輪から外れて携帯をいじりながらにやにやしていやがったのだ。
そして私と目が合うと、役者顔負けの素晴らしい技術で即座に申し訳なさそうな顔を作り、
「ごめん団長、俺も気づかなかったよ」
と、とぼけた台詞をかました。
そして言ったあと、少しふき出したシャルを本気でぶん殴りたくなった。
こいつだけは、絶対に許さねぇ……!!いつか必ず、かならず…!!
私が怒りに燃えていると、
何だかほんのすこしだけ懐かしい気配がした。
圧倒的な存在感をもったオーラ。あれ、これ………
「よう皆!悪いな遅れちまって!!」
そんな元気の良い声で登場した人物。
その人を見た瞬間皆目を丸くした。
それは、今回の事件(?)の前半で姿を消した…
「え」
「うっ…」
「出たぁあ!!」
「うぼぉおおおおお!!」
「何か悲鳴みたい、それ」
「シズク冷静すぎ、っていうか嘘!?何で!?」
みんな其々に驚愕と喜びの声をあげる。
私は驚きというか、待ちにまちすぎて逆に固まっていた。夢か、これ。それか寧ろ偽者か、この人。
「出たって…人を幽霊みたいに言うんじゃねぇよ」
そういって居心地悪そうにする人物に私はようやく現実を見始めた。いや、偽者なんかじゃない。長年一緒にいたんだから。ちゃんと分かる。
「うっ…ウボォーさん!!」
「ん?おう、団長!何か久しぶりだな」
「何処行ってたんですか、遅すぎですよ!」
「わりぃな、鎖野郎見つかんなかったんだよ」
「もう!」
いつもの姿に何か感動して泣きそうになっていると
ウボォーさんの登場に人一倍喜び感動しそうなノブナガが、ウボォーさんに駆け寄った。
「おいウボォー!お前っ死んだんじゃねーのか!?」
「?死んでねーよ。勝手に殺すなって」
「っ心配させやがって!偽者じゃねーよな!?」
「??おう」
泣きそうになってるノブナガを不思議そうに見るウボォーさん。
羨ましいくらいの男の友情だと思う。私はもう一度、静かにちょっとだけ泣いた。
これは皆に気づかれないと良い。照れ臭いもの。感動で泣いたなんて。
コルトピに借りたハンカチで必死に涙を隠そうとしているとシャルがさて!と一段落つけるように言った。
「ウボォーも帰ってきたことだし、これで一件落着だね!」
そもそもお前が事の発端だろ!くたばれシャルナーク!
私がシャルに見えないように親指を下に向けていると、シャルの言葉に一人が異論をあげた。
「ちょっと待てよ、俺はまだ一件落着とは思えねぇぜ」
「え……」
…ちょっと待てよウボォーさん、今かなり良い話なのに何を蒸し返そうとしているんだい?最早嫌な予感しかしない。
「俺は鎖野郎とケリをつけるっつったろ」
「まだつけてなかったのかよ」
「おう、だからまだ終わってねえ」
やっぱりね!お願いです終わりにしてください!
まずいぞ、このままではクラピカに被害がいく。私のせいなのに。私のせいであんないい人に迷惑をかけてしまうなんて、それは絶対にあってはいけない。嫌だ。
でもウボォーさんに正直に話して怖い目に合うのも嫌だ。マジで怖いよウボォーさんもういいじゃない。忘れようよでかいくせに小さいなぁ!
しかしクロロ、ここで黙ってクラピカを犠牲にしたら男が廃る…!
私は、覚悟を決めた。
「あのっウボォーさんそれは、」
「俺ぁ探すぞ。シャル、手伝え」
「ウボォーさ「ちょっくら行ってくるわ」まってよぉぉぉ」
どうして私の話を聞いてくれないのぉぉお!!
再びうわーんと泣き出した私を見てぎょっとするウボォーさん。私はもうやけになって叫んだ。
「おれがっおれがやったの!う、ぼぉーさんをっ助けたくてっ…!」
「は……?」
「ごっごめんなさ、いいいい!うわーん!」
「だっ団長…!?」
私は泣きながらその場で綺麗に土下座した。土下座マスターとは私の事である。
そして、その様子を見ていたみんなはウボォーさんを引っ張ってひそひそと話し始めた。
「あーあ、また泣いちゃったよどうするの」
「せっかく泣き止んでくれたのに」
「なに団長に土下座させてるか」
「可哀想だろ」
「団長だって頑張ったのよ?」
「泣かせるこたねぇだろ、許してやれよウボォー」
何を言っているのかはよく聞こえないが、ウボォーさんが気まずそうに頷くのをみた。
そしてウボォーさんはみんなにドンッと背中を押され、微妙に状況を理解していない表情で私に近づいてくる。そして私の目線に合わせてしゃがんだ。
「その…なんだ、もう気にしてねぇからよ」
「っほ、んとか、」
「おう、だから泣くんじゃねえよ。俺らの団長だろ?」
そういって笑ってくれたウボォーさんだが、
私本当にこれからも団長やってていいんだろうか。
「…みんなに、話聞いてもらえなかったり」
「団長命令出しても無視されたり、」
「下剋上されたり裏切られたり、」
「団員に俺のこと見殺しにするかしないかでもめたりされるけど…」
けど、
「それでも、俺を団長って、これからも、呼んでくれますか」
私がそう聞くと、みんなは何を言っているんだという顔ではっきり答えてくれた。
「当たり前だろ」
「俺らの団長はクロロだけだ」
「私も、クロロだから着いてきてるんだよ」
「みんな……」
「それにさ、見てごらんよ団長」
「…?」
「みんな、ちゃんと最初の団長命令は守ったよ」
「え…?」
……あ、
「俺が許す、殺せ」
「その代わり死ぬな」「みんな生きてる…」
「おう!まぁ当たり前だけどな!」
「聞いていたのか…」
「決まってんだろ」
「嬉しかったのよ、私たち」
相変わらず都合のいい耳だなみんな……
でも、ちゃんと聞いてくれたんだ。私の一番の願い。私が団長を続ける、一番の理由。
これ以上の素敵な事が、今まであっただろうか。これ以上嬉しいことが、これからあるだろうか。
神様にお願いしていた褒美は、ちゃんと届いていたらしい。
団長を続ければ、またこんなご褒美があるかもしれないな。これからの私の団長としての未来が、明るく輝いた気がした。
「みんな…ありがt「ようしせっかくだし飲もうぜ!」
「いいな!誰か酒とってこいよ!」
「おう、行こうぜ!!」
「おおー!!」
……前言撤回。私のこれからの未来は
別に今までと変わらない気がした。
最後まで話を聞かないやつらだな…!!
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