クロロ成り代わり | ナノ
26歳児のお迎え

三人は本当に親切で、私が今まで会ってきた誰よりやさしかった。今まで会ってきた人がたいてい不親切な奴ばかりだったのをぬいても、彼らは間違いなく親切である。
そうしてその空気に呑まれ絆された私はもうすっかり旅団の事をわすれ、本性丸出しのまま三人とそれはもう楽しく談笑していたのだが。

そんな所にとうとうパクが迎えにきてしまった。



「すまなかったな、私の勘違いで」

「ええ、大丈夫よ。団長がお世話になったわね」

「………」



クラピカはパクに向かって詫びると、
此方に向き直り、私にも律儀にもう一度謝った。



「クロロ、中々解放できなくてすまなかった。クロロのおかげで二人も無事に帰ってきた、礼を言う」

「……」



私が無言を貫きとおしていると、クラピカは仕方なさそうに笑った。それが切なくて、ぎゅっとコートを握りしめてうつむいた私に、パクはスッと手をのばす。



「団長、帰りましょう」

「………だ」

「?」

「…いやだ」

「!?え、?」



私の言葉にパクはとても驚いた顔をした。そして戸惑ったように、団長…?と声をかけてくる。
しかし私の決意はもう揺るがない。私は今まで優柔不断すぎたのだ。



「俺は……俺は小さなアパートに住んで小さな本屋でバイトして、素敵な女性に出会ってあたたかい家庭を築くの!!」

「どっ…どうしたのよ団長…!?」

「だからパク!!帰って!!」

「そ…それはできないわ。皆待ってるのよ…?」

「嘘だ!みんなおれを生かすか殺すかでもめたんでしょ?少なくとも何人かはおれがいらないってことじゃないか!!」

「それでも全員一致で私はここにいるわ…!」

「どうせコインで決めたんだろ!!おれはそんな、賭け事で生かされても嬉しくないよ!!」

「団長!!」

「うわーんクラピカー!!」



私がクラピカに泣きつくとクラピカは背中をぽんぽんと優しく叩いてくれた。
それを見たパクノダは絶句する。私が今まで作ってきたキャラが崩壊したからだろう。
しかしそれでもパクも一歩も引いてくれない。クラピカに泣きついている私をすごい力で引っ張った。



「団長!帰るわよ!!」

「やだやだやだやだいやだああああ」

「我が儘言わないでちょうだい、皆待ってるのよ!」

「かえりたくない!!誰も俺の話きいてくれないもん!!」



くそ…パク、何て力だ……
火事場の馬鹿力でも働いているのだろうか?
パクがめちゃくちゃつよい……!!

そんな私達を、いや、私を?
子供達は、ドン引きしたような、戦慄したような顔で見ていた。それでも私はあきらめない。



***



結局クラピカに「どちらにせよ、仲間と顔を合わせてしっかり話し合うべきだろう」と優しく諭されて、私は一旦旅団に帰る事になってしまった。
クラピカの言った事は確かに正しいが、納得のいかない私は帰り道、無言を貫いていた。
そんな私の手を優しく引くパク。私達は、端から見れば恋人同士に見えるかもしれない。
実際は全然違うけど。私達の関係はどう転んでも、例え私とパクが両思いだったとしても、そんな枠では収まらない。普通の枠でくくれない、もっと深いところで繋がっている何かがあるから。
私はそれの名前を知らないけれど、私にとってそれが如何に大切かはちゃんと知っていた。
結局私は、表面では納得してないように見せながら
自分から蜘蛛を離れることは出来なかったのだ。

私がそれに気がついて、何だか駄々をこねた自分が馬鹿馬鹿しくなっている間も、
パクは何も言わずにただ私の手を引いていた。今日のパクはいつもより優しい気がする。
ていうか今日のパクすごいお母さんみたい…私ガキなだけか。とても複雑である。恥ずかしい。

しかし、もしかしたら私はこの世界で今日初めて駄々をこねたのではないか。
私は今まで前世の記憶とかに囚われすぎて、変に大人ぶっていたのかもしれない。
私に記憶があろうと無かろうと、子供のうちは子供らしくするべきだったのだ。
だからこんな年で駄々をこねる事に……



「…団長」

「…?」

「ごめんなさい」

「え?」

「話、聞いてなかったみたいね。気づかなかった」

「…!」



パクを見ると、申し訳なさそうに眉をさげていた。
私と目があうと、そのままふっと微笑む。とても、綺麗だった。



「団長、」

「…なんだ」

「おかえりなさい」

「!!……うん」


私が旅団を必要としているように、
私は、旅団に必要だろうか。
答えは絶望的な気もしたけれど、もしも、もしも帰ってみんなが話を聞いてくれたなら、私はこれからも旅団にいようと思う。




因みにその頃、イルミを身代わりにアジトから抜け出し、クロロと戦おうと様子を見ていたヒソカは、



「うわーんクラピカー!」

「(…あれ、団長かい…?◆)」



泣き叫ぶクロロを見て目を点にしていた。
団長にしてはどうもいつもと様子が違いすぎる。
オーラの量も弱々しいし、何しろ物凄く情けない。
いや、情けないとか、そういう枠を超えてどうかしていた。



「(あの団長はおいしくなさそうだ…◆)」


そう判断したヒソカは携帯を取り出すと、
イルミにメールを送る。



「もう逃げて良いよっ…と◆」



何だか、自分が考えていたシナリオと大きくズレてしまった。
そうして何だかすっかり萎えてしまったヒソカは、白けた顔をしてふぅーと息を吐いたあと、
駄々をこねるクロロにもう一度目を向けて、笑った。

いつもの調子に戻ったら、今度こそ戦ってもらおう。
それまで、僕がさみしいクロロのトモダチになってあげようかな◆

130329

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