初めての理解者
鎖野郎が急いで電話をかけてくれて、最終的に“一応”パクが鎖野郎の仲間をつれて迎えにきてくれる事になったらしい。
案の定みんなその事で相当もめたらしいけどね。フッ…誰だ見捨てようとした薄情者は!
いや、寧ろ助けに来てくれるんだァ…って感じだけどね。切り捨てられる可能性の方が高いと思ってたから、驚いてるんだけどね。
生かすべきは蜘蛛だって、そんな寂しいことを皆口を酸っぱくして言っている。全員そう信じてるんだろうなって、そう思ってた。
しかしそもそも誰だよ、生かすべきは蜘蛛とか言い出したの…何度でも言うけど私は言ってないよそんなこと。さみしいなぁ。
そんな哀しみに暮れている私を、鎖野郎はずっと慰めてくれていた。嬉しい。嬉しいんだけども、流石にパクを待つ間ずっと、子供をあやすかのように私の頭を撫でられるのにはそろそろ複雑な気持ちにもなってくる。
完全に母性本能に目覚めた顔してやがる。いや、男だから父性?なんだっけこれ、イクメン?だっけ?
じっと見つめていると、視線に気づいた鎖野郎にフッと微笑まれた。ますます複雑な気持ちになった。
でも、もう前世のも現世のも覚えてないけどお母さんてこんなだったかなと思うと少し悲しくなったりもした。それにしてもこいつ美人だな。男にしておくのが勿体ないと思う。
「…ねぇ」
「何だ?」
「緋の眼、」
「…?」
「写真で見るより、ずっと綺麗だね」
そう言うと、鎖野郎は目を見開いたあと、せつなくなるような息づかいで小さく笑って、緋の眼を出してくれた。
少し驚く。自分で出せるんだ。昔本で読んだのとちがう。
「怒ったらじゃ、ないのか」
「ああ、訓練した」
「そんなこともできるんだ、………あれ、怒ったら?」
「?」
ちょっと待って、
怒ったら目が赤くなるって……
「お、王蟲…」
これは目標達成でいいのだろうか。普通にトトロじゃないけど……
「おーむ?」
「ああ、いや、……昔、同じ性質の生物を、見たことがあって。強くて神聖で、すごくやさしい、慈しみの心を持つ美しい生き物なんだ」
「それは、一度会ってみたいな」
「うん、是非。緋の眼には、かなわないかもしれないけれど」
すてきだね、宝石みたいだ。と言えば、彼の顔にほんの少し影がさす。しまった、と思った。思ったことをあまり考えずに伝えてしまった。
謝ろうかと口を開きかける。しかし鎖野郎はまた小さく笑って、そしてひどく穏やかな声で言った。
「ああ。…私の、誇りだ」
私は、思わず息を飲んだ。鎖野郎は、彼は、美しさと同じくらいにやさしい奴なんだ、きっと。誤解していた。もっと、冷酷な奴だとばかり思っていた。
知れてよかったと思う。こうして話せて、良かった。こんなに素敵な人と、話せてよかった。
さっきはフルボッコにされたけど。仲間もフルボッコにされかけたけど…あああそういえばウボォーさん何処行った!!?
「ねえ鎖野郎!」
「その、鎖野郎というのはやめてくれないか」
「ウボォーさん、どこにいるか知らないか!?」
「ウボォーサン?」
鎖野郎は少し考えたあと、あの大男なら謎の大爆発のあと逃げられて、それから見ていないが、と言った。
大爆発、ときいて、罪悪感がもこもこと湧いてくる。ごめん、ごめんね鎖野郎、爆発は私の仕業なんだ。ちょっと必死だったんだよ。
ああでもしないと酷い目にあわされたウボォーさんが更に怒りを重ねると思って…そしたらもう止められないし。
それで、良かれと思ったやった結果、そういう状態になっちゃったわけだけど。アホだな私。
それにしても、それならウボォーさん何処行ったんだよ…暴れてないといいけど。
考え込んでいると、鎖野郎がさっき言ったことをもう一回言ってきた。
「とりあえず鎖野郎というのをやめてもらえないか」
「え、じゃあ何て呼べば、」
「私はクラピカだ」
よろしく、と手をさしのべてきたクラピカに、私は思わず目をぱちくりさせて、それから頭の中で言葉を噛み砕いて、再びぶわっと涙が溢れた。
え、久しぶりなんだけどこういう友好的であたたかみのあるやり取り。私は今、猛烈に感動している。
長い間誰とも会話せず、2年ぶりに会った仲間たちには話も団長命令も聞いてもらえず…そんな冷たい生活を送っていたわたしには、到底涙を堪えられるものではなかった。
ぐすぐす情けなく泣いていると、運転席の人が「お前苦労してんだな」と言って、俺はレオリオだ!と笑う。助席のセンリツさんも同じように自己紹介をしてくれて。
そろそろ視界が見えなくなってきたところで、クラピカが「お前は?」と優しい声で訊いてきた。
「…っクロロ=ルシルフル、は、犯罪者だけどっ良き人になるよう、つとめます…!」
「ああ、よろしく」
ああパク、やっぱり迎えにこなくていいよ!もう私旅団抜けてやる!
そしてクラピカ達と友達になって、バイトとかして、真っ当に生きるんだ…!
クラピカの手をぎゅっと握りつつ、私はとうとう本当にそう決心したのであった。
130323
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