クロロ成り代わり | ナノ
コーヒーブレイクタイム

車が小さな段差を越えるたびに起きる振動に、揺られるがままにどこかへ向かう。身体に絡まる冷たい鎖、それを手にするこれまた美人な女性。
鎖野郎、女だったのか………!!

そんなあまりの衝撃に思わずまじまじと鎖野郎、いや、鎖少女?を見つめる。
空にピカッと稲妻が走ったと同時に、鎖少女が氷のように冷たい目で私を睨んだ。怖すぎて息を呑む私。
そう、今まさに、私のコーヒーブレイクタイムが始まろうとしていた………



「…何を見ている?」



いや、まさかホテルが急に停電するとは思ってなかったよ。しかも突然闇討ちされるなんて想像もしてなかったよ私は。誰だそんな事企むやつ。こいつだ。
旅団の女性以外にそんな物騒な事考える女の人がいたとは想定外だ。突然鎖が絡まって後ろから押さえつけられたときは、思わずおおうって叫んじゃったよ。
口塞がれたけどこの人には聞かれたよね?おおう恥ずかしいもうしにたい。



「おい?」



その前に私はこれからどうなるんだろう。
何でこんなめにあってるんだろう。どうしてだろう。シャルだ、全部シャルが悪い。とりあえずシャルが悪い。



「聞いてるのか!?何を見ている!!」

「おおおう!!!なっ………いや、鎖野郎が女性だとは、思っていなくてな、フッ」

「(おおう…?)……私がいつそう言った?見た目に惑わされぬ事だな」



そう言って、ぐいっとウィッグを取った鎖少女を見て、私はまた驚いておおう言ってしまった。女装してたのかこいつ!!!
いや、待てよ。もしかしたら男として過ごしているが女性なのかもしれない。
女装ではなく普段が男装……

思わず深読みしてしまうくらい驚いたが、とりあえず男という事にしておく。だとすると……



「これが噂の男の娘か……」

「何を言っている?発言に気を付けろ。そんなくだらん台詞をお前は最期の言葉にしたいのか?」



口に出てた………
しかしこいつ、私を殺る気満々すぎる。
どうしよう、死ぬ前にもう一度お母さんの作る煮物が食べたかった。好きだったきがする。『おかあさんの煮物』というワードだけで現世の私には絶対に手に入らないものだ、もう憧れしかない。
これから本当に死ぬのなら、私はこれで第二の人生を終えるわけだが第三はあるだろうか。だとしたらどうか、どうかシャルみたいなのの居ないところに…!!

次の人生の理想を描いていたら、死ぬのも何だか良くなってきた。来世に期待するのは愚かしいことだが、それでも死ぬならしょうがない。
ばいばい世界!ばいばいクロロ!よく頑張ったよお前!!全く話聞いてもらえなかったな!!
死を覚悟した瞬間私は吹っ切れた。もう何も怖くない…!鎖野郎も怖くない!!



「…そういえばネオンさんの占いにも、この事は出なかった」

「!?」

「つまりこの状態は予言するほどじゃない、どうでもいい出来事だって事だな」

「!!!貴様…!!」



すごい目で睨まれて若干ビビったが今の私は無敵である。…いや、でも、まだまだ美味しいもの食べたかったなぁ……煮物のせいで化けちゃったらどうしよう。
やっぱり死にたくないなぁ…いや、そもそも多分こいつ私を殺せないんじゃないか?
何かあの子供仲間だったっぽいし人質にとられてるのは私だけじゃないし。じゃあ私やっぱりここではっちゃけてもいいんじゃない?こんなに私の主張を聞いてくれる場面早々ないぞ。

これははっちゃけるしかない……!!
私やっぱり今無敵だ!!



「ふっ…もう一度言ってやろうか?俺にとってこの状態は、昼下がりのコーヒブレイクと何らかわりない、そう、コーヒぶべっ!!!」



グーで殴られた。
あまりの痛さに思わずにこっと笑ってしまったらさらに殴られる。
えっ痛い!痛いよ!!暴力反対!!



「ちょっ、ぶっごめ、ぐはっ、ごめんなさい!!!」



私が謝ってもきいてくれない鎖野郎。容赦のない追撃に意識が遠のく。謝ってる、私謝ってるのに!!酷い奴だ、もうお前なんて腐り野郎だ!!
何でホントにみんな話を聞いてくれないんだよ!!
いっつもそうだよ!!ずっとそうだったよ!!
ああ、嫌なこと思い出してきた。私が盗賊になった、あの日のこと。

あの日もたしか、いつもどおりだった。


130322

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