クロロ成り代わり | ナノ
こどものことば

鎖野郎のヒントを少しだけ掴んだ。
どうやらそいつは、緋の眼のクルタ族らしいのだ。
緋の眼といえば…いや、今となっては思い出したくない思い出だ。やめよう。

とにかくウボォーさんが殺されてしまったなら、申し訳ないし、散々人殺しをしてきた盗賊の分際で勝手だけど、鎖野郎への復讐を止めようとは思わない。寧ろ私も1発殴らないと気が済まない。
みんなが納得するような方法で、それぞれが好きにすればいい。せめて、それがウボォーさんへの弔いになればと思う。
その為にまず何としてもやつを見つけなきゃいけない。それはもう心を鬼にして。私もとうとう団長スイッチ入ったよ!

そうして鎖野郎を探すために班分けまでこなした。単独行動は危険だ。班分けの最中も相変わらず「悪い団長、聞こえなかったもう一回」とか言われてなかなか話進まなかったが今回は割とスムーズだった方だと思う。



「団長、ひとついい?」



自分の仕事ぶりを誇らしく思ってひとりどや顔をしていると、マチが声をかけてきた。
ちょっと何か恥ずかしい。しかしポーカーフェイスを極めた私には些細な問題だ。案の定マチは気づかず話を進めた。



「子供がさ、ここの場所知ってんだけど…まぁ鎖野郎とは関係ないみたいなんだけど。やっぱりどうも気になるのよね」

「こども…?」



いつそんな話になったんだ…?
そう疑問に思っていると、ノブナガが思い出したように「あ!」とか叫んだ。ビビった。
何事だとノブナガの方を見ると久々に嬉々とした表情をしていた。



「忘れてたぜ団長!そいつの入団を推薦するぜ!」

「ちょっと!こっちはそんなつもりで話をしてんじゃないよ!」

「……?」



話が読めません。



***



ノブナガとマチの話をまとめるとこうだ。
どうやら私がキレてオークションに向かった時に怪しい子供につけられたらしく、とっ捕まえてアジトにつれてきたと。するとそいつが何か、ウボォーさんに似てて面白いから仲間にしたいと。
いや…でも、ウボォーさん死んだかどうかまだちょっとわかんないからね?ちょっと気が早いというか…私はまだ希望を持ちたいよ。
否、その子どもが、ノブナガにとって希望だったりするのだろうか。

話を戻す。その子供はパクが調べた限りでは鎖野郎とは無関係だったらしいが、マチはどうも気になるという。因みに勘で。
マチの勘はよくあたるので怖い。昔──流星街にいた頃、一回マチが、「クロロに死亡フラグがたってる気がする。勘だけど」と言った事があった。
そして、物騒な事を言うなとそれを無視したら、突然雨に降られてすべって転んだり自分より小さい子に棒で殴られたり、犬に追いかけられたりと死にかけたのだ。最早予言者レベルである。
とにかくマチの予言は無視してはいけない。あれは本物だ。怖い。



「アジトのダミー、増やしたほうが良いんじゃない」



シャルが言う。うるせーな今言おうと思ったんだよ。心の中で悪態をつきながらシャルを見ると無表情で怖かった。



「ごめんなさい」

「何か言った?団長」

「いや…コルトピ、あと10棟いけるか?」

「…50は平気」



頼もしいっすコルトピさん。



***



頼もしいコルトピの能力はアジトを増やすに限らない。コルトピが具現化したコピーは円の役割も果たしてくれる優れものなので、ネオンちゃんの競り落としたであろう緋の眼の在処だってわかるのだ。その在処こそ、鎖野郎の居場所。

それを目指して、私達はとうとう行動を開始した。
かっこよく言ってみたが、ぶっちゃけ私達みたいな
可笑しいファッションのヤバイ目した集団が、道を一緒に歩いたり電車にのったりしているのは随分とまた笑える光景であったことを忘れてはならない。
是非とも客観的に見たかった。当事者なんて御免だ。

ちょっと恥ずかしいなぁとか思いながら歩いていると、コルトピが突然言った。



「動いてる…!下にゆっくり降りてる」



どうやら緋の眼が移動しているらしい。
下にゆっくり…エレベーターか。



「急ごうぜ団長!!」

「これから全員で捕獲にかかる。
………あんまり酷いことす、「GO!」ちょっ、お前ら!!!」



私の指示を無視して走りだした皆を追いかける。おい誰だGO言ったやつ!許さん!
昔にもこんな事があった。かけっこ………私がよーいどん言うはずだったのに。そういえば、あの日も雨だったような。
雨の中集団で走る私達は、状況が違っていれば子供染みてて笑えたかもしれない。
ウボォーさん…ホントに何処行ったんだよ…やっぱり、鎖野郎に…

ていうか待て、何でみんな壁走れるんだよ。どう考えても可笑しいだろ。
私も普通に走ってるけど。何で私壁走れるんだ。普通に道を歩いてる人達の視線が痛い。
ニンジャ!?と言われた時はぶっちゃけ嬉しかったけど。だって、かっこいい。
もう覚えてないけど、恐らく、いや確実に、前世よりかなり人間離れしたよな…
しみじみした。しかしそんなことをしている場合ではない。ふと、違和感に気づいた。



「……尾けられてる?」



何だかんだで尾けられ慣れている私だけが気づいたことらしい。
横を走っていたシズクとマチが驚いたような声を上げた。



「!!いつから!?」

「団長!」

「えっ!?えっと、…!」



こんな時だけ頼るのは止めてくれ!!



「っノブナガ パクノダ コルトピ前行って!」

「了解!!」



三人が走って行ったのを見届けながら、自分の言葉を思い返して、最近素が出てるんじゃないかと心配になった。
ああもう、そんな場合じゃないのに。つい思考が飛んでしまう。あわてて現実に戻り、私は後ろを振り返った。

瞬間、何か、その場から左右に跳びのいた影が見えた。え………



「……み、見えた?」

「影だけは…」

「まぁ、見えても見えなくても関係ないか…うん」

「了解」



何が了解なのかちょっとよくわからないが、マチとシズクはじりじりと影の入った方へ近づいていく。私の言葉を“追い詰めろ”と判断していたのかとようやく気づいた。
2人が、完全に影の方へ行く前に、観念したように物陰から出てきたのは一人の少年だった。



「え……!?」



こどもすげぇ!!尾行上手すぎだろ!!
驚いていると、子供を見たマチは何だか知ってる風に「またこのコ?」と言った。
それで何となくこの少年がさっきノブナガが言ってた子だなと悟る。
そして、マチが右の路地の方にも声をかければ、新たにもう一人こどもが出てくる。
あれ……どっちだろう、わかんないや。見た目は勿論全然ウボォーさんじゃないし…

どっちにしても何で私達を追って来たんだこの子たち……そんな私の疑問に答えるように、マチは少年達に尋ねた。



「何の用だ?もうあたしらに賞金懸けてるマフィアはいないよ」

「え、ホント!?何で?」

「…ぇ…?」



小さく、雨の音でかき消されるくらいの声が思わず漏れる。なんで!?はこっちのセリフだ。え、だって、え?賞金なんてかけられてたの私達!?
そう叫びそうになるのだけは必死にこらえた。いや、だって、え!?知らなかったんだけど……まぁ普通に考えたらそうだよね。私達マフィアに喧嘩売ったわけだし。
しかしながら本日一番の驚き。しかもすでに解除されてるっていうね。全然気づかなかった。私の知らぬ間にすべてが終わっているとは………

それにしてもこの子達もすごいな。
金欲しさに賞金首に手を出すとはすごい度胸だ。



「どうする団長」

「ああ…一応、捕まえておこう」



マチの勘を信じて、マチに二人を拘束するように頼む。もし二人が本当に鎖野郎と繋がりがあるなら逃がさない方が良い。
少年たちには悪いが、タイミングの悪い事に私の心は今鬼なのである。本当に可哀想で今すぐ逃がしてやりたいが、もう一度言うと私の心は…
……可哀想だなぁ… 逃がしてやろうかなぁ…この子達金が欲しかっただけなのに、集団復讐劇に捲き込まれて…しかしホントに金が欲しくて賞金首に手を出すのってすごいな。私には真似できないよ。
感心して二人の少年を見ていると頭突きとかしたら強そうな少年が、ふいにねえ、と私に声をかけた。



「何故関係のない人を殺せるの」



少年の真っ直ぐな目が私を射ぬくように見つめてくる。同様の真っ直ぐな言葉も、私の身体を真ん中から貫いた。



「………」



こども、こわい。目が、目が、すごくこわい。
許さないって、最低だって、どうしてって、純粋な瞳からひしひしと伝わってくる。いたたまれなかった。逃げ出したいと、これほど強く思った事もない。シャルナークに見つかった時よりもずっと、逃げ出したかった。
私がそうして、ひとり居心地の悪さを感じている間にも、強い目で睨まれ続ける。早く言えということだろうか。
考えてみる。何故、関係ないひとを殺せるのか。…少し、おかしな質問だ。関係のある殺しが当たり前みたい。私が言うのはおかしいけれど、殺人に当たり前なんてないし、関係があってもなくても、行為は結局同じことだ。私はそう思う。だって、そうじゃなきゃ、私は今頃みんなと一緒にいられない。

しかしこの子は、理不尽な理由のない、関係のなさゆえに感情の篭らない殺しの方が、おかしくて恐ろしくて罪深いと思っているのだろう。
それなら尚のこと私は答えられない。私は、自分がやられたかけた時や、団員になにかあった、そういう時に手を下す。それは、この子のいうそれとはきっと外れている“関係のある”殺し。
この子のいうような、無作為で、理由もない殺しをしているのは、私ではなくて、私の手足だという団員たちだ。私ではない。ので、わからない。───じゃあその皆は、どうして関係のない人を殺すんだろう。



「うーん……」



それは、今までいくら考えたって、私には到底わからなかったことだ。
抜け落ちて消えてしまったとはいえ、家族と過ごした前世の記憶の縁取りだけはしっかり残っている、流星街育ちになりきれない私には、きっと、これからもわからない。
世界を見る方法なんて他にも、それこそこの世に生きる人の数だけあるのに、皆が敢えてこの“関係のない人達から奪う”道を選んだ理由。
それについて考えた時に思うのは、そもそも皆の見ている世界と、私の見ている世界が180度違うのかもしれないということだ。



「価値観の相違…か」



そう、それが、理解という寄り添うために必要なものを決定的に遠ざける。埋められない溝を作る。
ひょっとすると、話を聞いてもらえないのはそのせいかもなぁ、と今更ながら思った。
ちょっと、さみしい。だからせめて、そんな私が一緒にいるために、殺しは平等でなくてはならないのだ。

色々と考えて思考が飛んでたのに気づいてはっとする。子供の方に目をやれば、子供は未だに私を睨んでいると思いきや、何こいつヤバイというような目で見ていた。ええ何で!?もしかして独り言言ってた!?

子供の正直すぎる態度を見ていたら、さらにとても哀しくなったので、それを誤魔化すようにマチとシズクにホテルに向かおうと言おうと思ったら
その一歩手前でとりあえずベーチタクルホテルに行こうとマチに言われた。
私はもう黙ってて良いかもしれない。寧ろ黙ってた方が良いかもしれない。


130320

prev next


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -