クロロ成り代わり | ナノ
占い師の女の子

ドラちゃんが無事誕生日を迎え、夜が明けた。
みんないつも通り私の話聞かないでウボォーさん死んじゃった疑惑を出してきた癖に、
やっぱり何だかんだ言ってその疑惑には納得がいっていないらしく、その件に関して未だ議論中である。マチ達のような冷静勢と、単細胞勢が文句を言いあっているだけだが。
しかし、皆落ち着いてきたしこれなら話聞いて貰えるかな、と事情を話そうとすると、どういうわけか相変わらず誰かがかぶせてくる。これはもういじめが始まってると見て間違いないだろう。
いくら言っても団長の声は皆に届かないようなので、説明はもう諦めた。

そうしてじっとしていると、一晩かけて漸く話がまとまったらしい皆が、「鎖野郎とウボォーの捜索してもいいか」という旨の許可を求めてきたので、あっさり了承してやった。
勝手にしろ。もう皆知らない。私は私で勝手にやってやる…!




というわけで、



「着きましたよ」



オークション会場にやってきました!
いや…もう着かないと思った。朝方アジト出たのにもう夜って何事。
もう少しでシャルにすがって道教えてもらう事になってた…危ない…
公園で運転おじさんを拾ってよかったよ。おかげで無事辿りつきました。

なんかちょっとおまけがいるけど。



「ありがとお兄さん!助かった!」



…何で私、年頃の女の子とこんな物騒なオークションに来てるんだろう。
可愛い笑顔に悪い気はしないけども、流石に私最近流されすぎじゃね?
気を引き締めなければ。一人気合いを入れていると、ネオンちゃんというらしい女の子にぐいっと腕を引かれた。
意外に強引な娘だな…そういえば、ふと思い出したけど、ネオンってシャルが何時か言ってたよく当たる占いの女の子じゃん。



「お兄さん、はやく行こう!」

「…競売までまだ時間あるよ?」

「ええっそうなの?じゃあお茶でもしようよ」



こんなに強引な占い師だったとは。
でもやっぱり悪い気はしないので、ニコニコ笑っている女の子に笑顔を向けて、なるべく爽やかになるように言った。



「じゃあ行こうか」



やっぱり私最近流されすぎじゃね?



***



という訳で年頃の女の子とお茶する事になったクロロです。
そこまでは良いんだけど、ぶっちゃけ何話せば良いかわからない。生まれ変わる前、私は女の子とどんな話してたっけ…?何しろもう20年以上前の事である。
実は私は前世の出来事を殆ど覚えていない。一生忘れないと思った卒業式も、友達も好きな人も家族ですら実はぼんやりとした顔とあやふやな名前くらいしか覚えていなかったりする。
思い出となると殆ど出てこない。ただ、そんなのもあったかなーという程度だ。
いや…現世が前世より遥かに濃くて……だって、魔獣がいたり盗賊がいたりするしね…私が盗賊だし…

話を戻す。とにかく私は女の子のしてた話は恋ばなくらいしか思い出せない。
ていうか私が今年頃の女の子がしそうな話するのも可笑しいか。恋ばなだって突然するとかもう不審者だ。もう立派な男だからね私。



「…あー、占いが得意なんだってね」

「うん、得意だよ。偉い人にも頼まれるもん」



とりあえず私が出しても可笑しくない話題を出した。今だけはシャルに感謝してやる。
ネオンちゃんの話によると彼女の占いは百発百中らしく、不思議な事に勝手に手が動いて占うということで彼女自身よくわかっていないようだった。
素直に感激した。



「すごい!俺も占える?」

「いいよ、じゃ 紙に自分のフルネーム、生年月日、血液型を書いて」



こうして私は成り行きでネオンちゃんに占ってもらうことになった。
お偉いさん達は高いお金を払ってやってもらうようなのでラッキーだ。



「じゃあ占ってみるね」



そういって彼女がペンを握るまで気づかなかった。
ネオンちゃんは、念能力者だったのだ。右手に突然現れたなんかよくわからないものを見た瞬間、それに気づいて、私ははっとした。
それから一瞬だけ、ウボォーさんのことを思い出して、私の根っこの悪いところが疼き、小さく、企んでしまったのだ。

説明が遅れたが、私の念能力は言わずとも知れたスキルハンターである。
特質と聞いて何にしたら良いか悩んでる時にシャルに勧められたものだ。
でも、当時から私には盗みとか盗賊とかそういう考えがなかったので、この能力を他人の能力をちょっと借りるだけのものにした。
つまりスキルハンターと言うよりは、スキルレンタルなのだ。借りた能力は、それを必要とした時に頁が開いて、ほとんど本任せで発動する。使える回数は、能力によって違うので私にはわからないが、それぞれ一定の回数使用後持ち主の元へ自動的に返る。というような仕組みだ。
奪うことをやめた代わりに、条件はそこまで難しくない。条件は3つ。能力の正体を知って、実際に見ること。そして、本を片手に相手の手に触れることだ。

ちょっと、借りるね。ごめんね。
そう心の中で謝りながら、私は本を取り出し、占い中のネオンちゃんに手を伸ばした。
指先が触れる。ネオンちゃんは、能力発動中は何も見えないのか、気づいた様子はなかった。
よかった、変態だと思われたら大変な騒ぎだ。お嬢様だからこの子。小さく息を吐いて本をしまうと、ちょうどネオンちゃんがパチリと目に光を戻して、笑顔で私に紙を差し出してきた。



「はい、出来たよ!」

「ありがとう」



詩になってるんだっけ。占いの結果も楽しみだけど、そっちもなかなか楽しみ。文学好きにはたまらん。
わくわくしながら目を通して、一つ目の詩を読み終えた時点で、私はものすごく驚いた。


“招かれざる客が貴方の元に訪れて”
“貴方が何より大切にしている物を盗んでいく”
“無理に足掻く事は勧めない”
“そうすれば糸は絡まるばかりだから”



「1つ目の詩の出来事は終わってるかも、どう?当たってた?」

「………」



え…ちょ、凄くない?当たりすぎ。現実がくっきりと文字になって浮かんでいて辛さに涙出てくるんだけど。泣きそうなんだけど。



「……すごいね、当たってるよ」

「…!?」



泣きそう、と思っていた私は、どうやら本当に泣いてしまったらしい。頬を涙が伝って、あ、と思った時にはネオンちゃんにひどく驚かれていた。
いや、これはドン引きされたっていうのだろうか?やばい、ますます泣けてくる。

いや、正解だよネオンちゃん、あなた天才。
招かれざる客とはシャルの事だろう。そして私が大事にしていたものは平和だ。糸なんてもう間違いなく蜘蛛のことだろう。
うわぁぁもっと早くこの子に会えていれば良かった。そしたらシャルも、今回のこともきっと避けられたのに。

そうして泣いている私を、最後までネオンちゃんは何も言わないで見守ってくれた。優しさがいたい。


130217

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