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ザザザザと不穏な音を立てものすごい勢いで後を追いかけてくる複数の影に、バギーはぎゃあと悲鳴をあげ、カルムは振り返ってきゃあきゃあと歓声を上げた。


「わー!!ブルゴリだー!!」

「おい!手ェ出すんじゃねぇぞカルム!!」

「えっなんで!」

「何でっておめェ決まってんだろハデ馬鹿野郎めェ!勝てるわけねぇからだよ!!それよりこのままうまいこと巻いて騒ぎを大きくしねぇようにしろってんだ!!いいな!?」

「わかった!!」


カルムとバギーは頷き合って、更に加速した。バギーが周りを気にする余裕も無く必死に走っている中、危機感知能力の欠如した呑気なカルムは、監獄のあちらこちらに目を走らせる。こんな風にこの広い建物の中を走り回れるなんて夢みたいで、楽しくてしょうがなかった。
おかげで彼女は前方に堂々と突っ立っている人影をしっかりと見つけて、バギーの肩をバンバン叩いて前を指差した。


「バギー?バギー?前に人が、人がいる!!」

「てめェ今それどころじゃっ…!前より後ろどうにかしやがれ!!」

「よーし!」


待ってましたと言わんばかりにザッと立ち止まり、後ろを振り返って拳を構えたカルム。バギーは慌ててバラバラに浮かせた右手を伸ばし彼女を引きずり戻した。そして再び走らせながら、このどうしようもないお馬鹿にもう何度目かのあまり意味の無い説教をするのだった。


「よし!じゃねェとにかく走れ馬鹿が!!」

「えーっ!?どうにかしろって言ったのに!ねっ!?」


前に突っ立っていた人影はいつの間にか隣を併走していて、一緒に走ってるからにはもう友達みたいなものだと判断したカルムは親しげにそれに話しかける。
人影もとい、麦わら帽子を首にかけた少年は「なんだ!?なんか言ったか!?」と走りながらカルムに聞き返したが、カルムは何がおかしいのかケラケラ笑い出して話にならない。少年はますます首をかしげた。
その間に、とうとうバギーがブルゴリに肩を掴まれてしまった。カルムはあっと声を上げたが、どうこうする前に彼は斧で縦に真っ二つ。


「ぎゃああああ!切られたァ!!」

「わ!」

「あははははは!!!」


切られて尚走りづらそうに走り続けるバギーがツボにハマり、カルムはげらげら笑う。隣を走る少年は、訳が分からなそうに「なんだこいつら!!」と叫んでいた。もう状況がめちゃくちゃである。


「いけー!!バギー合体だー!!」

「シャキーーン!!ぎゃははおれ様が切れるか馬鹿者めェ!!」

「おーおーおー!!」ぱちぱちぱち

「もっと盛大に拍手を、て、え、どわー!?麦わらァ!?なぜここに!!?」

「え!?」

「え?」


ようやく人影の正体に気づいたバギーが、その少年に向かってまるで知り合いのように叫んだので、少年本人も驚いたようにバギーを見返す。それから数秒後、正体を確認して残念そうにへなへなと項垂れた。


「…なんだ…バギーか…」

「ふざけんなこのスットンキョーめ!!相変わらず生意気な野郎だ…!!」

「そっちは知らねぇなぁ、おめェ誰だ?」

「え?…カルム!」

「へ〜!知らん!」

「わたしも!」


そんな自己紹介にもなりきらない会話の後、にこにこ笑いながら見つめ合う2人に、バギーは「なんだこの空気!!」と叫んだ。


「っつーか麦わらァ!てめェも捕まってたなんてな!」

「俺は自分できたんだ!捕まったんじゃねえ!」

「んなバカがあるか!はっまさかてめぇ…!おれを…助けに………

────来るかバカヤロ!!気色悪いわ!!」

「うるせェな!?おれは騒ぎを起こさねェってハンコックと約束したのに巻き込みやがって!!」

「好きで騒いでんじゃねェ!!おれだってたった今『バギーとカルムのこっそり脱獄大作戦』が台無しになったトコなんだこいつのせいで!!」


バギーが指差した先にいるカルムは、終わらないランニングにすっかり飽きて、追ってくるブルゴリに手を振りながらお〜〜いと声をかけている。バギーはもはや声にならない小言を喉の奥で丸めるように響かせた。
そうこうしている内に、正面に回り込んだブルゴリに行く手をふさがれる。


「わっ!前からも来たぞ!!」

「チキショー!!どいつもこいつも!!」


バギーは立ち止まろうとして、そのまま走り続けようとしたカルムの首根っこを掴み引き止めようとした。しかし結局カルムに引き摺られながらそう叫ぶ。“麦わら”も立ち止まらないまま、ふと今更なことを言い出した。


「これ逃げなきゃダメなのか!?」

「何言い出すんじゃアホめ!!捕まったら地獄の拷問だぜ!?こいつら血も涙もねェんだぞ!!」

「だったら捕まんなきゃいいんだろ、おれ急いでんだ!よく考えたらもう、騒ぎは起きちまってるしな」


その言葉に、バギーはなんとも言えない顔をして、心底疲れたようにため息を吐いた。言葉にならないような苦い思いが少しずつこぼれて行く。


「…お前や赤髪の…そういうトコが嫌いなんだよおれァ…!!はぁ〜…あァあァわかったやってやらァ……」


そう言って、バギーはカルムの首根っこを離した。カルムは嬉しそうに笑って、すぐに後ろを振り返りジャンプする。それを合図に、前を向いたままの2人の拳が正面のブルゴリにまっすぐ向かって行った。


「ド派手大作戦に変更じゃァ〜〜〜!!!」

「のった!!!」


ドゴォォォンという爆発でもしたかのような音に紛れて、カルムはケラケラと大笑いしながら後ろのブルゴリをぶん殴った。

170404

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