7日目
丸一日放り込まれているこの音のしない懲罰房は、まるで世界から切り離されたみたいで、さみしく、しずかで。カルムは、此処こそあの夢の中の夏の島なのではないかと思い始めていた。
しかし此処にはお酒はないし、遠くの夕暮れもない。歌を歌ってくれる人もいないから、踊っても楽しくなかったし、昨日から手錠が妙に重たくてうまく踊れもしなかった。
退屈な独房、カルムはくるくると指先で円を書きながら、ふう、とため息を吐く。カルムは、いま、ようやくわかった気がした。


「たのしくない」


彼女はずっと、楽しい事とは自由であることだと思っていた。そして、自由になれないのは、他でもない他人という存在のせいだいうことには馬鹿なカルムでも流石に気づいていた。
屋敷にいた頃も、外へ出てからも、ここへ来てからも……カルムはたくさんの大人に、いつも押さえ付けられていたのだ。
そんなカルムにとって、カルムの世界にはカルムただ1人きりで、それ以外は障害物や、せいぜい玩具程度のものだった。

だけど、いまならわかる────1人は、つまらない。
だってきっと、バギーとだったら、この懲罰房の中でも、退屈なんて感じなかった。冒険なんてしてなくても、夢の島でなくても、地獄でも、バギーとならきっとカルムはたのしかった。
だって昨日は楽しかったし、一昨日も楽しかったもの。今までつまらなかったのに、色んなことが、楽しくなったもの。
楽しい人といれば、楽しいものがなくたって、楽しいんだ。楽しい人となら、楽しいことがもっともっと楽しくなるんだ。
カルムは生まれて初めて、その事に自分自身で気がついた。


「バギー」


ぽつりと呟いたその名前も、いつか思い出せなくなる日がくるんだろう。カルムの脳みそはポンコツの空っぽだったし、彼女の人生にはあまりに別れが多すぎた。
しかし、忘れたことすら忘れてしまうカルムは、未だその結末には気づかず、ふふふ、と笑って、鼻歌を歌いながら寝転んだ。眠ろう。遠くの夕暮れを見れなくたって、見る夢なんてたくさんある。

カルムがそう思いながら、目を閉じた時。格子の方で、カチャリ、という音が鳴った。カルムはん?と顔を上げる。


するとそこには、鍵を持った右の手だけが浮いていた。



「……………バギー?」


半信半疑。そんな様子で、カルムがその名を零せば、あっという間に格子の戸が蹴り破られた。カルムは飛び起きて、遅れてやってきた本体の、逆光でよく見えない顔に、目を細める。
そんなカルムに詰め寄った彼は、目の覚めるようなはっきりとした声で、カルムを急き立てるように言った。


「何寝ぼけてやがる!!今日はもう来たぜ、おめェも来いカルム!!」


その声は紛れも無くバギーだったし、細めた先の顔だって間違いなくバギーで。カルムは、夢の続きを見ているような、そんな気持ちで目を瞬かせた。そんなカルムに、まっすぐ手が差し伸べられる。

考える必要なんてない。他の選択肢なんて、カルムの目には見えなかった。カルムは今までで1番素敵な笑顔を浮かべ、迷うことなくその手を取った。



「うん!!」


カルムはこのとき、何よりもその孤独から救い出されたのだ。


170308

back




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -