インカローズの夢

煙でくすんだ空の下を、少女は歩く。
なにかに誘われるみたいに、蝶でも追いかけるみたいに、何も無い虚空に目を向け、瞳を輝かせどこかへ向かっている。
春の日の爽やかな草原でも歩いているみたいな軽く明るいステップを踏んでゴミ山の上を歩き、緑のあおい匂いの代わりに、彼女はひどいゴミのにおいを吸い込んだ。


「すてきだわ」


スカートを翻し、くるくると踊るように少女は歩き続ける。なにか歌のようなものを口ずさみながら、近くを飛ぶカラスを可愛らしい小鳥を見るような目で見つめ、落ちているゴミの中に風に靡く布切れでも見つければ、可憐な花を見るように微笑んだ。
そして時折、ゴミの前で立ち止まっては、その奥に何があるのかわかっているかのようにひとつゴミを退け、色とりどりの硝子の破片や、壊れた玩具、綺麗な小石を拾いあげる。
それを太陽に透かして、嬉しそうに笑う。


「きれいだわ」


どこまでも無邪気な、子供らしく可愛らしい笑顔だった。頬を赤く染めて、ふふふ、と心底幸せそうに笑うのだ。
まるで自分が童話の中のお姫様だと信じているような、夢見がちで、どこにでもいる普通の少女。だがそれは、あまりにも此処では不釣り合いで、普通とはかけ離れていた。
流星街。武器も死体も、生きた人間も、何もかもゴミと共に捨てられて、それが許されている。彼女もついこの前、そうやってあっさり自分を産んだ母親に捨てられた孤児だというのに。そんなことはすっかり忘れているようだった。
ゴミを漁った手は薄汚れていたし、風に揺れる白いスカートはところどころほつけていたけれど、彼女はそんなことも気にならなかった。
手は洗えばいいし、スカートは破けてしまえば仲間が綺麗に直してくれる。だからむしろ、スカートに関しては破けてしまえとすら思っていた。
破れてしまう度に赤い糸で刺繍を施してもらえる素敵なスカートは、彼女にとってお気に入りで、宝物のドレスだったのだ。
少女はいつも満たされていた。何も持っていなかったから、いつも新しい何かを手に入れることが出来た。手に入れる度、幸せだった。

朝から歩き続け、そろそろ足が疲れたと気づけば、大体もう夕暮れ時だ。
遠くに見える夕日を見て、少女はうっとりしたように息を吐く。
────なんてきれいなの。そのときの少女の世界は、限りなく美しく、眩しかった。


***


念も使えない警官が応援にかけつけた所で、私のような貧弱な念能力者だけで事足りてしまうのだから命の無駄でしかないと思う。
それでもやはり数がいれば多少仕事の邪魔になるのは間違いないので、私がここにいるのだ。私がいつも遠くでの見張りなんていう楽な仕事をさせて貰えるのは、可哀想なこの人達のおかげ。

最後の一人を掴みあげ、その命を摘んだ時、遠くの方でまたドンパチしている音が聞こえてくる。
今日は昨日と違って宝の在処も敵の人数もわかっているから、昨日より静かに終わるんじゃないかと踏んでいたのだが、やっぱりそううまくは行かない。向こう側にも応援がきたんだろう。

私が幼い頃から愛用し、“ほしがり”と呼んでいるこの能力は、何度も言うが千里眼とは程遠いただのお宝探知能力でしかない。
気づけば身に付いていたものだから自分でも詳しくはわからないが…恐らくは自身のオーラを、付近にある私が心からほしいと思うものや、本能的に惹かれるもののところまで放出し、それが障害物を把握したりと、円のような役割を果たしている。そんな所じゃないかなって思う。
故にお宝までの道のりしか把握できず、お宝のその先は見えない。例えば建物の向こう側にたくさんの敵が居たら、それは確認できないのだ。
また文句を言われるな、と思わず溜息が出る。本当に穴だらけの能力。私の欲張りな本能が生み出した、所詮は子どもの遊びの延長でしかない能力だ。
うまく使えればもう少し役に立つかもしれないとは思うんだけど、生憎それができない。私はオーラの絶対量も少なければ、戦闘のセンスも大したことがないから。

また、遠くで花火が咲く。あの日見た夕陽のような、終わりの色をしている。夕陽よりも乱暴に終わりを突きつける。うつくしかった。
ファイアーオパールみたく、石の中に閉じ込めてしまえたら良いのにと思う。そうしたら、私の手の内に入るのに。

何となく手のひらを確認しようと手を開けば、すっかり忘れていた、最後に殺した人の死体が手から抜けていく。
どさりと音をたてて落ちたそれを目で追って、そのすぐ近くで光に反射して輝く破片のようなものを発見した。思わず喜びの声が漏れた。


「あっきらきら」

161003

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