トリフェーンの指先

ドンパチし終わったらしい皆と合流すると、涼しい顔をしていた私を見て、おい、働け!とノブナガが叱ってきた。
実際の所私が働いても大した戦力になりはしないし、それどころか自分の暴れる範囲でチョロチョロされなくて好都合に違いないのに、毎度毎度のお約束のように、誰かしらそうやって絡んでくる。
それに対して私がなにか言う前に口を開くのは、フェイタンとか、その辺の実力主義みたいな人達。役立たずの邪魔が入らなくて寧ろ助かるね、だとか何とか言って、適当にその場を丸め込むところまでがお馴染みの流れだった。
役立たず。本当にその通りなのだが、敢えて言われると腹が立つのでフェイタンをジト目で見れば、フェイタンはいつものように意地の悪い笑みを浮かべた。


「なにか?私事実を言ただけよ」

「べつに」


フェイタンのその棘のある言葉に、腹は立てど傷つく事は決して無いのだが、何だか申し訳なくなることは少なくない。過去の私に対して、もう少し強くて使える能力にどうしてしなかったのだろうと疑問に思うこともたまにある。
が、そうは言っても私はそれなりに付き合ってきた自身の能力を気に入っていたし、そもそも私のオーラの絶対量は、人並み以上にはあったとしてもみんなよりは随分少ないので、このくらいがぴったりの能力だったと今日もあっさり納得してしまえたのだった。
私はべつに、力や強さには興味が無い。それは、ほしいものに含まれない。欲しいか、欲しくないか。この世界のものは、主にその二つだ。





大きなチョコレートパフェを食べていると、のどが焼けるようにかっと熱くなるから、時々牛乳を飲む。しあわせだ、と思う。


「のどが焼けるって、本当はチョコが好きじゃないんじゃないの?」

「ううん、すきだよ。でも、これを飲みながらだともっとすき」


言ってから、こくりと牛乳を飲んで喉の火事を鎮火させる。しあわせだ、と思ったら、シャルはまたケラケラと笑った。


「ルイはほんっとうに子どもだなぁ」

「あー、またそれ。シャルも食べてるくせに」

「牛乳は飲んでないよ」


そう言って珈琲を片手に微笑むシャルナークは、かわいらしい童顔でも立派な大人に見えた。いちごパフェなんて食べてるくせに、ずるい奴。
私は、珈琲は嫌い。みんなどうしてわざわざ苦いものなど飲むのだろう。そんなに苦くては、毒と大して変わらないとすら思う。
ずっと甘くて優しいものを食べていたい。甘いものからは、しあわせの味がする、気がする。また子どもだと言われるだけだから、シャルには教えてあげないけれど。
そうして可愛いいちごパフェと、大人ぶったシャルを見比べるうちに、私はいちごパフェが食べたくなってきてしまった。


「いちご食べたい…」

「自分で頼みなよ」


すました顔で苺パフェを食べ続けようとするシャルをじとっと見ると、シャルはしばらく私を無視しようと視界に入れないようにしていた。
それでも見続ければ、一分もしない内にシャルの形のいい唇の端がふるふる震えだす。そうして結局、彼は最後には観念したようにちらりとこちらを見て、ため息を吐いた。


「ルイはさー、その目すればいいと思ってるだろ」

「思ってないよ、断じて」

「でもこれで俺があげなかったら、ずっとその目で見てくる気だし。思ってるようなもんだよ。あーもう、ほら、どうぞ?」


シャルはぶつぶつ文句を言いながらも、スプーンにたっぷりのアイスと苺をちゃんと乗せて、ずいっと差し出してきた。おいしそうで思わずほろっと笑ってしまう。


「わーい、自分で食べれる」

「可愛くないなー」


スプーンを受け取り自分で口に運んだ私を見て、シャルは頬杖をついて不満そうに目を細めた。
そんな事言って、素直にあーんしてもらったら困っちゃって、気持ち悪いとか何とか暴言を吐くくせに。私は知っているぞ。
それでも、シャルはよくこうして、何だかんだ言って私の欲しがりに付き合ってくれる。しょうがないなぁ、がめついなぁ、子どもだなぁって言いながら。いつもそうだ。
決してつけ上がっている訳では無いつもりだけど、そんなだからつい、それに甘えてしまうことも多い。

ただ、ひとつ言わせてもらうと、そうしてしまうのには物が欲しい以外の訳もあって。
私に子どもだなあ、という時のシャルの目を見ると、私はなんだか不思議な気持ちになる。私はこの不思議な感覚を、たまに無性に欲していたのだ。
私を子供扱いして、私のほしがりを許すシャルは、なんだかまるで────なんて言うんだろう、失念してしまったけど、まるで“なにか”みたいだと、私はいつも思う。今も、シャルを見ながらシャルにその何かを感じていた。
そんなシャルは、私がシャルのことを一生懸命考えていることも知らず、私のチョコレートパフェを奪いながら仕事の話を始めた。


「ルイがミイラを欲しいと思ってくれたら今日の仕事はもっと楽だったのに」

「…うーんと、それよりも前に…どうして、団長はミイラなんかがほしいのかな」


なんだか私のせいみたいな言い方だったので、責任逃れのために話の軌道を変えた。私のせいではない、どう考えてもいらないもの(死体)を団長はどうしてほしがるのか、そこが問題だ。
団長がきらきら光る宝石とか、うつくしい彫刻とか、ギリギリ興味の範囲外だが、古文書とか、せめてそういうものを欲しがってくれれば、私は喜んでそのほしがりのお手伝いを出来たのに。


「さぁね、きっと何かすごい死体なんだよ」

「ふぅん」


シャルな適当な言葉に適当に返事をして、最後の一口を口に入れれば、シャルはまた大きなため息を吐いた。


「こいつ結局俺のパフェの残り全部食べたしね」

「シャルも私のチョコレートパフェ食べちゃったじゃないの」

「いやこれ甘すぎ。ほんとに喉焼ける。ルイ糖尿病でしぬんじゃない?」

「そんなことないし。そう、牛乳、これを飲めば喉の火事も大丈夫なんだよ」

「いらないよ」


のーさんきゅー。といった顔で私の差し出すカップを制し、また珈琲を飲むシャルを見て、こいつ味覚がいかれてやがる。と思いながら、私は牛乳を飲み干す。

160822

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