モルガナイトの囁き

思えば彼と会った帰り道は、いつもこうだ。こうやって、ふらふらと街を彷徨うようにひとり歩く。街の灯りは溶けるようにぼんやりとしていて、私は、あまりいい気分ではなかった。

ぬくもり、だって。嫌な言葉。
ヒソカも彼も、みんなして、私をどうしようもないさみしがりだと思っているのだ。
そんなことはない。シャルナークはそんなこと、一度だって私に言ったことはない。一番一緒にいて、私を一番知っているシャルが言わないんだ、きっとそんなことはないんだ。
たしかに私は悩んでいる。悩んでいるが、さみしいなんて一言も言ってない。ただ、ほしいものが思うように見つからない物足りなさともどかしさを感じているだけで────ああ、その探し求めているものが、ぬくもりだという話か。だから寂しい人に見えるのか。だめだ、もう、よくわからなくなってきた。

わたしの、ほしいもの。目に見えない、私のほんとうにほしいもの。
こうして彷徨う間も、何度も何度もすれ違う家族連れ、恋人同士、友達に囲まれた誰か。ここは、ぬくもりに溢れた街。
わたしはこれが、本当はうらやましかったの?そうだとしたらそりゃあ、さみしくもみえるね。必死につまんながって、ほんとは欲しいくせにって思われてたならば、私は随分滑稽だ。
だが、愛なんてくだらないって思ったのは、それを当たり前に享受できることへの羨ましさと言われてしまえば、私は否定出来ないかもしれない。

どいつもこいつも、ここに殺人鬼がいることにも気づかず、考える事すらせずに、自分たちは平和の中に生きていると信じきってべたべた馴れ合って歩いている。
私は、ほしい?あれを?あんな陳腐なものを?わたしはさみしいの?さむいの?ぬくもりがほしいの?わからないけれど、私がこうして人混みから離れられないのは、つまり。
そう思い至って、私は立ち止まり、胸を抑えた。こんなはずじゃない。こんなの、私じゃない。私はそのままフラフラと、路地の隙間に身体を滑り込ませた。


街の賑やかな音たちは遠くに、静かな路地裏、私は壁によりかかって再び考える。
ヒトを殺してはいけない、と誰かが言った。
隣人を愛せよ、とどこかの宗教が言った。
家族、恋人、友人、それらは人の弱みになる程に大切なものだと、いつか私が宝石の為に殺したとある1人も言っていた。顔は覚えていないけれど、そんな奴がいたのは覚えてる。
ばかだと思ったから、印象に残っている。その人はかつて強かったらしいが、本当に簡単に私に殺されてしまったのだから、それは事実なのだろう。ならばどうして、それを知りながら彼は弱みを作るに至ったのか。
私が首を傾げれば、奴らはみんな決まって、その温度をあたたかいと言った。心地よいのだと、そんなふうに笑った。

私にはそれがわからなかった。
私にとって世界のものは、欲しいか欲しくないかに分けられる。それと同じように、私にとってヒトとは、旅団であるか、そうでないか。その二つだ。
旅団は家族でも、恋人でも、友人でもない。そこにはやさしいぬくもりなんてものもなく、ただ仕事の時の冷たく燃える空気と、あたたかい鮮血だけが頼りだった。それ以外をみんなに求めるなんて考えもしなかった。
そして、旅団でないのならいよいよ私には関係ない。関係ない奴に対して何らかの感情を抱くことは有り得ない。死のうが苦しもうが、私達さえよければ、いいのだ。そのはずだった。とにかく、有り得なかったのは本当だった。
私はあの時、殺す寸前のかつて強かった男になんて言ったっけ。ばかだと思ったんだからきっと、鼻で笑ってトドメを刺したんだろう。今日だって、そう出来たならよかった。

私は結局、彼を殺すことができなかった。

170416

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