嘘つきハウライト

せっかく街に出たので最近の憂鬱を晴らすためにショッピングを、とそのまま街をぶらぶらすることにした。結局ヒソカはその後も私のあとをついてきたが、今度こそ無視することに決めたので問題ない。こういうのは、好きにさせておいた方がいいのだ。こういう人は大抵気まぐれなので、飽きるまで放っておくに限る。
それに、せっかくのショッピングなのだから、誰かに振り回されるのは御免だ。私達は盗賊だからあまり買い物なんかは感心しない、と一部からは文句を言われるが、私はショッピングがすきだった。
私は、お金を使う。自炊をしない影響で頻繁に飲食店に行くこともあって、ご飯にはお金を出しているし(食い逃げはめんどうなのだ)、服も基本買っていた。特にそういうポリシーがある訳では無い。ただ、払える時はとりあえず払っておく。払えない時は払わない。簡単な方法で欲しいものを手に入れるというそれだけのことである。
それに、お金を使うのはなんだか気持ちがよい。



「口紅?君、つけるのかい?」

「つけないよ」


だよね、とヒソカは私の顔をのぞき込んで頷いた。私は構わず化粧品売り場で、口紅を眺める。
私は、宝石の次に口紅が好きだった。だって、つやつやしてて、素敵。キャップの綺麗な装飾も好き。


「これがいいんじゃない?」

「……きれいだけど、赤なら私はもっと鮮やかな赤がいい。それにいま私、桃色がほしい気分なの」

「似合うよ」

「………」

「そっちにするのかい?」

「それ、血みたいなんだもん。今の気分じゃない」

「似合うのに」

「うそつき」


私に赤い口紅は似合わないし、まず第一に似合う似合わないの話なんて求めていない。だって、私は普段口紅をつけないんだから。
違うのだ。私は未使用の口紅のつやつやを眺めるのがすきで、使ってしまったら汚くなっちゃうから、もったいなくて嫌だった。
勿論使ったことはある。使うのも好き。でもこれはご飯をとても不味くするし、あと仲間に見られるのは何だか恥ずかしいので、一人の時にこっそりつけて、鏡の前でふふふってする。それだけ。

結局ヒソカの意見は無視して、私はシャーベットピンクの口紅を一つ買った。それからお気に入りのお店でやさしく揺れるワンピースを買って、靴を買って、気分よく歩く。両手に荷物が増えていくのが楽しい。
そう思っていた時、両手から急に荷物が消えた。ばっと隣に目を移すと、ヒソカの手には消えた荷物がしっかりと持たれていて、顔を見上げれば、ヒソカこちらを見下ろしこてんと首をかしげて笑った。思わず変な顔をしてしまった。


「ねぇ、荷物…」

「他にどこか行く?」

「……今日の夕飯を買いに。荷物を、」

「それなら今日は一緒に食事でもどう?」

「絶対やだ荷物返して」


ヒソカは肩を竦めて、しかし荷物は返してくれなかった。そのあとの買い物にも付き合ってくれて(勝手に付いてきただけと言いたいが、荷物を持ってもらってはそう言ってしまうのも居た堪れない)、結局家の割と近くまで、ヒソカに送ってもらう形になってしまった。なんて奇妙。ストレンジ。


「……ヒソカ、此処でいい」

「家まで送るよ?」

「お前に家を教えると思うのか」

「冷たいなぁ」


ヒソカは再び肩を竦めて、わざとらしく残念そうに言った。思ってもないくせに。そう思いながらヒソカをジト目で見た後、私は、なんとなくを装って気になっていたことを改めてヒソカに尋ねてみた。


「ねぇ、どうしてついてきたの」

「暇だったからね。…それに」


君がとっても、寂しそうだったから。

私は、ヒソカの言葉に思わず目を丸くして、ヒソカの方をバッと見た。驚く私と反対に、ヒソカは何でもないような顔して私を見下ろしている。私1人、動揺していて、口からは裏返ったような素っ頓狂な声がこぼれた。


「わたしが?」

「うん。ボクも可哀想になっちゃって」

「ヒソカ、ヒソカって……優しいのね」


言ってから、これ程的外れな答えはあるだろうかと自分で更に驚いた。優しいって、なにそれ、ヒソカに全然似合わない。ヒソカも流石に、私の言葉に肩を震わせて笑っていた。
それを見たらだんだん落ち着いてきて、私は咳払いをひとつした。なんだか、狼狽えてしまった自分が恥ずかしい。


「そんなに笑わないで」

「ごめんごめん、キミって面白い事言うね」

「確かに、面白いけど、だってヒソカが先に変な事言ったんだよ。さみしそうだなんて…」


さみしくなんて、ないのに。どうしてヒソカはそんな事思ったんだろう。というより、ヒソカもさみしいって感情を知ってるんだ。
なんて、ヒソカという人間を何だと思っているのかと言われてしまいそうな失礼なことを思いながらも、やっぱりヒソカにそんな言葉は似合わないように思ってしまう。


「……ヒソカも、寂しいと思ったこと、あるの?」

「ほら、やっぱり寂しいんだ」

「ちっ…ちがう、ちがうの……ああもう、もう止めにしようこれ」

「そう?」

「うん。荷物ありがとうヒソカ。もうここからはほんとについてこないでね。ついてきたら、私、ヒソカのこと“捨てる”から」


そんなこと出来るわけないけれど、私の本気度を表すためにわざとむっとした顔でヒソカに言う。
私の虚勢がおかしかったのか、ヒソカはくつくつと笑って、荷物を返してくれた。


「そんな事言わないでくれよ、仲間だろ」


そういいつつも立ち止まってヒラヒラとこちらに手を振ったヒソカに、手を振り返して歩き出す。意外とあっさりしていて、何というか、印象がいいのでは?と客観的に思ってしまった。
私はてくてくと自宅への道を進みながら、今日のことを振り返る。そして、ヒソカも思っていたよりは、普通だったかもしれない。と、ヒソカへの認識を改めかけた。


「────いや、そんなわけ、ないよなぁ」


しかし、すぐに思いとどまった。ヒソカが普通なんて、やっぱり変だもの。彼は思いっきり変わっているし、誰よりも得体がしれない。

だけど、買い物のときに意見を言ってくれたり、荷物を持ったり、途中まで送ってくれて、さみしそうだと案じてくれたりするのは、やっぱり────優しさに相当するのではないかとも、わたしは思うのだ。
ただ、彼は嘘つきで何か企んでいるかもしれないから、素直に受け取ることはできないし、これからも気をつけなきゃいけないけど。それでも彼は今日、私にとても優しかった。それは、紛れもない事実だと思う。
この考えは、些か律儀過ぎるかしら。私って、騙されやすい女なのかな。ううん、そんなことは無いけれど。でもきっとシャルが知ったら、また怒るだろうなと思った。

170211

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