ファイブロライトの破片

また別の日、1人散歩をしていたら、自分のいま歩いている道がここ最近よく見るようになった景色であることに気がついた。気づいた瞬間、私はもうぎょっとして、慌てて踵を返し、来た道へ引き返したのだった。
────どうやら私には、クロロの元につい足を運んでしまうわるい癖がついてきているらしい。それは、私の能力の特性上仕方ないことでもあった。私は今日も、クロロのことを考えていた。


「………クロロ」


私は、小さく小さくつぶやいた。困ったものだ、そう溜息を吐いて、そうして再び歩き出そうとした、その刹那のことだ。背後に、気配。


「奇遇だね」


突然聞こえたそこそこ聞き覚えのある声に、私は僅かに顔を顰めた。まさか、こんな街中で会う偶然があるだろうか?そう思いながらも振り返れば、やはり────そこには胡散臭い笑顔を浮かべた、ヒソカが立っていたのだ。私は無言のまま前を向き直し、その場を去ることにした。

しかし、やはりついてくる。わざわざ向こうから声をかけてきたのだから、ああどうもこんにちは、だけで済むとは思っていなかったが……何にせよ私についてくるとはどうやら余程暇らしい。それとも────目的があって、ついてきているのか。思案しながらしばらくそのまま歩いたが、結局私は耐えきれず振り返った。それから、人差し指でヒソカを突き刺すように差して言った。


「言っておくけど、ついてきたってクロロには会わせてあげないよ」

「やっぱり探せるんだ。君なら探せるんじゃないかって前から思ってたんだ」

「探さないわ。殺されてもね。」

「つれないねえ」

「うん。えっと、ついてこないで」


そう言って再び歩き出したが、やっぱりついてくるのである。どうしよう、こんな街中でムキになって揉めるのも何だかみっともないし、団員同士のマジギレは禁止だし、そもそも私がマジギレしたところで、殺されるのがオチだろうし………コインで決めるべきか?しかしコイントスなんかで、この人は大人しく帰ってくれるだろうか。ヒソカが誰かとコインで物事を決めてるところは、残念ながらまだ見たことないのでわからない。付き合いも浅いし。では、どう追い払ったものか。

しばらく色々と対策を考えたけれど、その内段々めんどくさくなってきて、別に付いてきててもいいような気さえしてきた。今日はクロロの元に行くつもりはないし、一緒にいるのが不愉快なほどヒソカを嫌っているわけでもない。ヒソカが私に興味無いように、私もヒソカに対する興味はほとんど無いに等しいものだった。
私の世界は、とても狭い。殆どがうつくしいものと、クロロとシャルナークと、みんなと、それから僅かな流星街の思い出でできている。その、いわゆる私のすきなものリストの中にいないものに対する興味は皆無だ。そして、ヒソカはそこに入らない。
ヒソカは確かに旅団員で仲間だが、“みんな”の中に入っていない。私の中でヒソカは、いつだってただヒソカという人間で、絶対にそれ以上にもそれ以下にもなりはしないのだ。『どこどこのヒソカ』に絶対になるつもりのない彼は、ただの刺青一つでは『幻影旅団のヒソカ』にも、なろうとしない。だから彼は、私の世界にも、きっと永遠に入ってこない。
それはヒソカが私に興味無いからそうなっている所もあるわけで。だから私とヒソカの関わりあいは、このように初めから終わっているようなものなのである。

それにしても、だからこそこいつのクロロに対する執念には本当に感心する。私なんかについてきてまでとは、彼も欲しいもののために大変な思いをしているのだなと感慨深くすら思った。
そこでふと気になって、私は斜め後ろのヒソカを振り返り、尋ねた。


「ヒソカも、クロロがほしいの?」

「うーん、君のとは、違うかなぁ」

「私のがどんなのか、わかるの?」


振り払う勢いだった歩く速度を少し緩めれば、ヒソカは上機嫌に私の隣に立った。ヒソカは、充分大きいシャルナークよりも更に背が高いので、横に立たれると首が痛い。なら見なきゃいいのか、と気づいたのは、にっこり笑いながら彼見下ろされた時だった。ほんと、見なきゃ良かった。何とも胡散臭くて、もやっとする笑顔だ。


「ほしいんだろ?力は関係なしに、クロロ本人に人として魅力を感じてる」

「それは否定しないけれど。だってきれいだもの。きれいなものは魅力的でしょ」

「君はクロロが好きなんだ」

「………どういう意味…?それ」


当たり前でしょ、と思ったが、ヒソカの言い方が何か別の意味を含んでいるような気がして、私は立ち止まり、顔を顰めながらヒソカを見上げた。
しかし当のヒソカは飄々とした態度で、空なんか見上げながら、さらに続けた。


「君は盗賊に向かないねえ」


…だから、どういう意味。それ。

170201

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