エメラルドが告げる

ほしいものが、ほしいわ。

それはつまり、具体的に何が欲しいとか、そういうんじゃない。本当にほしいものとは、私にとっていつでもあって、いつでもないのだ。
いつもなにかがほしくって、いつもなにかが足りなくって。たぐり寄せるように素敵なものをかき集める。割れた瓶の破片とか、不思議な形の小石とか、壊れた玩具とか。今では、きらきら光るお高い宝石なんかも。
要するに、何でもよかったのかもしれない。どこか好きだと思えたら、簡単にそれがほしくなる。私はとってもほしがりなのだ。そしてそれは、わたしだけじゃなく、みんなおんなじこと。私が昔から一緒にいるみんなは、昔も今も大体そんな感じで生きている。

どーん、なんていう派手な音と、花火みたいな閃光を遠くから眺めた。今日は“奪う日”。そして、どこかの誰かにとっては“奪われる日”だ。
あそこに何があるのか、みんなが何を奪いに行っているのか、昨日聞いたはずなのに思い出せないのは、それが私にとってたいして魅力的なお宝じゃあなかったからなのだろう。
今日はあまり気乗りしていなかったが、それでもお祭りとは程遠い不幸の旋律は、聞き慣れたものだからか心地よい。
ものを壊すのは嫌いだけど、ものが壊れるのを見たり、音を聴くのは私の大好きな時間だった。


「また遠くで楽しんでる」


人任せな私を咎めるような言葉が突然、背後から聞こえた。言葉自体はそうだけど、声にはちっともそんな色は含まれていない。
いつものことだ、今更咎める気もないんだろう。振り返れば私の少し後ろに、目の上に手をやって遠くを眺め、すごいすごいと笑う男がいた。


「シャルは、今日は行かなくていいの?」

「たまには眺めるのも良いかなって。別に大した相手でもないし。ルイはたまには向こうに行かなくていいの?」

「いい。ここで見張っておく係が私にぴったりだから」

「良いご身分だこと!」


揶揄うようにそう言ったシャルは、向こうの喧騒から目を離して私を見た。思わず羨んでしまうような、ぱっちりと大きく、そしてうつくしい瞳のなかに、私と花火がいる。それがなんだか不思議で、じっと見つめていると「あげないよ」とシャルは言った。はて、私は今欲しがる目をしていたのだろうか。首をかしげれば、なんとなく。と彼はぼかして笑った。


「ねえルイ、打ち上げは明日だろうし、このあと飯でもどう?」

「えっなんで打ち上げ明日なの?」

「あー、また忘れたの?今日盗むミイラは、ミイラだけじゃ意味が無いって団長が言ったんだ。対になってるものを明日隣の国の美術館に盗りにいくんだから、打ち上げはまだ。明日だよ」


因みに出発は明日の朝だから、置いてかれるなよ。
そう呆れたように、それでもうんと丁寧に説明してくれるシャルのおかげで思い出す。そう、ミイラ。みんなミイラを盗りに行ってたんだ。そして私は、ミイラはあんまり素敵じゃないなあと前々からおもっていたのだ。
だって、結局ただの死体だもの。特別なものには思えない。保存状態が良くても、昔の偉い人のでも、死体は死体。見飽きたものだ。
そのミイラを欲しがって、こうして盗る計画を立てた私達の団長であるクロロにそれを言ったら、きっと「お前はわかってないな」と言われるのがオチだろうけれど。
クロロは私のわからない沢山のことをわかっているから、マイペースでのろのろしている私にはついていけない事が多い。わかってないのは何も私だけじゃなくて、ウボォーあたりなんかはお宝よりも戦いが大好きだから私より全然わかってないんだけど、私に関しては盗むという行為よりお宝その物に興味がある分「興味があるくせにわかっていないのか」と、そのように言われてしまうことが多かった。
何にもわかっていない馬鹿な私が、明日もあるのか、とちょっぴり億劫になってしまったのは内緒。


「じゃあ今日、ご飯行く。ファミレス行きたい。港近くの、最近出来たヤツ」

「え、あそこ?ほんと安上がりだなぁ」


そんな事を言ってシャルは笑うが、お高いものが素敵だとは限らないことを私はよく知っていた。
シャルは知らないのだろうか。あそこのパスタはちょっぴり辛くてたまに無性に食べたくなるし、アイスクリームは甘くて美味しい。


「でもわかる、俺もよく行くし。意外と美味しいんだよね」


味を思い出してお腹が減ってくる私に、シャルは頷いた。その言葉にあっという間に気分が良くなったし、何かを手に入れたときのように嬉しくなる。よかった、知っていた。
それとも、シャルはただ私の好みに付き合ってくれているのだろうか。彼は意外と、思っているよりかは社交的だし、何より私に対してなんだかんだ甘いところがある。
しかし、だからといってわざわざ気心知れた私や仲間に発言まで気を遣うほど窮屈な生き方を、この私に負けず劣らずのマイペース男がするわけないか。素直に同じ気持ちだったことを喜ぶことにして、私も頷いた。たのしみだ、ファミレス。
大きなパフェが食べたいといえば、シャルは子どもだなぁと笑った。シャルも食べるくせに。

160820

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