オパールの髪飾り

男と話して、帰りに迷子になって、大道芸を見て、結局シャルに迎えに来てもらったあの日を境に、私は2週間ほど家に引きこもった。何をしてたわけでもない、なんにもする気が起きなかったから引きこもったのだ。
シャルには一応、体調が悪いからしばらく会えない、会えるようになったらまた電話する、といった旨の連絡を引きこもる前にしたが、しかし、2週間は流石に長過ぎたらしく、とうとうシャルは家にやってきた。


「別に具合悪くないだろ」


合鍵で勝手に入ってきたシャルは、布団にくるまってかたつむりと化している私を見てそう言った。私がもぞ、と布団から顔を出して、目を細めながらシャルを見上げれば、シャルは「うん、悪くないよね」と納得したように勝手に一人頷いた。
それから、テーブルの上の食べっぱなしのスナック菓子の袋を見て、げ、と呟き、つけっぱなしのテレビに目を向けてこれまたものすごく嫌な顔をする。
別に見ていた訳では無いが、テレビは録画していた月曜日の恋愛ドラマを連続的に流していた。シャルはリモコンのメニューボタンを押してそれを止めると、腰に手を当てて再び私を見た。


「なんかさ、急につれなくない?」


シャルの言葉に、私は布団から出ないままにシャルをじっと見つめ返す。それだけ。シャルの言い分は最もで、返す言葉はないからだ。
シャルはそこそこ怒っているようで、いつものように笑うことはなく、終始真顔である。ひょっとして私から、いつもと違うにおいでもしてるのだろうか。あの日はしていたかもしれない。だからかもしれない。


「休めばって確かに言ったけど…飯すら断るとか流石に愛想減らしすぎでしょ。いや、愛想なんて元々ないか…とにかく今のお前コミュ力がやばいよ」

「…、……ひとりで考えたいの」


少し考えた後、そう返した私を尻目に、シャルは慣れた手つきで私の録り溜めたドラマを消していく。別にドラマに対する気持ちはいつもと変わらないし、やめて欲しいとも思わないので、放っておいたまま、私は考えた。

シャルナークは基本的に、こうして私の面倒をみまくってくれている。家から出てこないとこうしてやってくるし、食生活にも目を光らせているし、この前のように一緒に宝石を盗りに行ってくれたりもしている。
そういう目の前に差し出された事実だけを見ていくと、私だけがうんと我儘な悪いやつで、私だけがシャルを振り回しまくっているようにも見えるが────そして確かに、私が先に悪いかもしれないが────シャルにだって、そういう時が確かにあるのだ。
そう。シャルにも仕返しに私を振り回してみたい時があるらしく、急に私に素っ気なくして姿をくらましてみたりすることが度々ある。
勿論会える日の報告はいつも通りする。具体的な日付は言わないが、会えそうになったら必ずすぐ連絡するからさ、って。今回の私と全く同じ手口だ。
私はそうやってシャルにほっとかれると、勿論いつも頼っている分とても困ってしまうが、ただ困っていてもしょうがないので、なんとか一人でやってみようとする。例えばひとりでご飯を食べに行ったり、一人で盗みに入ったり。
すると、意外と1人でも出来てしまう。けれど、シャルに比べていびつで下手くそなそれを見て、何だか急にシャルのお手本を見たくなって、結局しばらくして私からシャルに連絡してしまうのだ。
そうすると、シャルはあっさりその日のうちに、遅くとも次の日には帰ってくる。

────なんだ、忙しくしていた訳では無かったんだ。初めから、連絡してもよかったのか。とびっくりするが、それよりも気になるのは────その時の、シャルのまとうにおいである。
そういう感じで帰ってきた時のシャルは、いつもと違うにおいをまとっている。私は、何故だかそれにむかつく、というか、とにかくもやっとしてしまう。

けれどそれも、「シャルナークはルイのものではない」と誰だったかに言われてからは、ああ、そうかもなぁと思って自分を納得させることにした。
そんなこと、そんな意地悪、ほんとはしてほしくないけれど。恋人でもないのに、それは変な話だ。────だから、今シャルがそこそこ怒っているのだって、本当は変な話では?


「…シャル」

「何?」

「ご飯食べたいかも、あのね、和食」


まぁ、いいのだけど。シャルの心はシャルのものだから、怒ろうがシャルの勝手だもの。
しかし、私の心は、本当に私のものだろうか?もうずっと情緒が不安定で、自分の事なのにわからなくて、何だか、自分のものでないみたいだ。

170109

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