寄り添うローズクォーツ

わかりきってはいたが、それは思っていた以上にくだらないことだった。
その男は、話してみればみるほど“マトモ”で、普段は、麗らかな陽射しに照らされたお洒落なカフェの店員をしているらしい。歳は20代半ば、柔らかな物腰と芯のある心を持った、所謂好青年であった。
シャルだって、一目見た限りでは負けないくらいの好青年だが、しばらく付き合い、少し見る角度を変えようものなら、やはり隠しきれないにおいを持っている。
喜びの中で生まれ、優しさの中で育った“外”の人間とは全く違う、あの街独特の異臭────といっても、それは嗅覚で感じ取れるものではなく、考え方や生き方、感性、立ち振る舞い等、それら全てを総称してそう言っているわけだが────とにかくそれが根本的に違うのだ。
私たちはそのにおいに慣れてしまっているからその可笑しさには気づけないしわからないけれど、ふとした時に外の人がそれを感じ取ったなら即刻、可笑しいと指を差されてしまうようなそれのせいで、私達は悪者をやっている。
まぁ要するに何が言いたいかといえば、その男は私達のような流星街出身のドロボーとは程遠い人だということだ。優しくて、曇ったところなんてほとんど見当たらない。馬鹿な私の手を引いて乱暴したり、脅したり────私が悪者である可能性ですら、考えもしないのだろう。
歌が好きなのですか、とか、いつもは何をしているんですか、とか、何の企みもないどうでもいい話をする。しかし私は元よりどうでもいい話は好きな方で、決して退屈はしなかった。
だけれども、そうして程よく楽しんでいる自分にすら、今思い出してみれば、とてつもなくくだらないとバカにする気持ちが湧いてくる。
生温い。宝石の煌めきも、すぐ側に佇んでいたはずの影すらもない、優しくて暖かく、希望に満ちたそこは、不吉な気配を感じてしまうほどに、穏やかで静かだった。

わかっていたとはいえ、期待してなかったわけではなかったのだ。私が導き出した欲しい物が彼の背中に隠されていて、腑に落ちるんじゃないかって。くだらない生温いそれを少しは認められるのかもしれないって。
なのに、ああ、何てことだ。本当にただくだらなかった。そして、寒気がするほどに恐ろしい。期待外れだ────でも、そう感じれたという点では、良かったとも思う。ほら、大丈夫、シャルに言った通り私は何にも変わってない。今までどおりの私だ。

道をずんずん大股で歩く。次第にスキップ。くるくる踊りながら、私は私であると何度か言い聞かせれば、気分も次第に晴れてきた。
何を迷っていたのだろう、きっと迷っていたのが悪いんだ、ぬくもりが欲しいのかもしれないと心の何処かで疑ったから、“ほしがり”がうまく発動しなかったんだ。きっとそうだ。それだけだ。
誰に教えられたわけでもない、それでも気づけば口ずさんでいた幼い頃から馴染みのメロディを紡ぎながらどんどん進めば、今なら迷いがないのだから、いつか宝石店にでもたどり着くと思っていた。思っていたのに。


────でもやっぱり、だめだ。私の足はしばらく彷徨って、結局知らない街の噴水広場の大道芸の前にたどり着いた。
それを楽しめるような気分でもなく、むしろそんな人の多い所に辿り着いた自分に絶望した私はすぐに帰りたかったが、自分のいる場所がどこなのかもわからず、帰れない。
私はシャルにとりあえずヘルプメールを送って、途方に暮れながら、大して面白くもない芸を見てあまりに退屈でひとり微睡んだ。

170108

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