ホープダイヤモンドの呪い

私の能力、所謂発────必殺技は、すべて目に関連しているもので、大きく分けて三つある。
私はみんなと比べてとても貧弱だけど、一応特質系の能力者だ。持て余しているとよく言われるが、その通りだと思う。しかしそのことは、とりあえず今は置いておこう。


「向こうに3人……ルイはとりあえずあっちの柱の陰に。俺が合図したら、ルイが仕留める。その間に俺はセキュリティルームでロックを解除して、終わり次第目当ての部屋で落ち合う。いい?」

「了解」

「じゃあ、また後で」


シャルに背中を押されて、数メートル先の大きな柱の陰に身を潜め、様子を伺う。
建物の至るところにある監視カメラのいくつかを壊しながら侵入したため、向こうにいるボディーガードの様な3人組は、見つからない侵入者の存在にイラついたような、それでいて焦燥感たっぷりの声で何やら怒鳴り合っている様子だった。
ここに居ますよ、もう、すぐ近くに。怒鳴り合っている場合じゃないよ。

間抜けな彼らに肩を竦めて、シャルを振り返った。シャルも私と同じように肩を竦め、呆れた様子でこっそり笑うと、ぴっと3本指を立てて私に向けてきた。カウントダウンだ。
私は、シャルの手から目を離さないまま、姿勢を低くして、準備を整える。

さん、にい、いち、


「(go!)」


心の中で言って、私は未だに怒鳴り合っている3人組に全速力で向かっていく。
両の目は敵をしっかり捉えた瞬間、冬のように冷たくなり、視界は真っ赤になっていった。

私の能力は、先程言ったように、三つある。
一つは『ほしがり』。みんなが千里眼と呼んでいるものだ。オーラを放出し、その生命エネルギーが求めるもの、欲しいもののところまでの道程を示してくれる能力。
もう一つが『お見通し』。たった今使ったものがこれで、見たものの綻びや歪みを見透かすことができるというもの。例えば酷使し過ぎた筋肉や、折れたことのある折れやすい骨、弱っている内臓等、そういう弱点みたいなものを探し当てることが出来る。
透視みたいな便利な能力のように見えるけれど、要するに相手の弱点を“ほしがった”結果、私のオーラがたどり着いて、それを示したというだけで、結局のところわかりやすいよう名前を変えただけの『ほしがり』なわけだが。


「────っ!!?し、侵入者、」

「見えた」


私に気づき、振り返った男の腕を掴んで、ちょっと念を込めてパンチすればあっという間に砕けた音がする。弱っていたからか反応が遅れたからか、頼りない凝では私のオーラでもこの通り。非常に痛快。気分がいい。
正直大した情報じゃあないかもしれないけれど、私は些か貧弱だから少しでも弱い所を突けたほうが良いのだ。この人たちはそもそも弱いので、使わなくても大丈夫だとは思うけど、例えばこの人たちが強かったなら、私が勝つのは難しい。
でも弱いところを見つけて念を込めてパンチすれば、それなりに腕とか壊せたりしてしまう。ウボォーとかが使えたらたぶんもう絶対無敵。使わなくても、彼は無敵だけれども。

粉砕した腕を抑える男についでに肘鉄して、ふっとばす。これでも僅か数秒の出来事だけれど、フェイタンだったらもっと速い。例え彼が重度の心臓病でも、私の力で殺すことは不可能だろうなとこういう時ふと思う。


「こ、いつ……!!」


二人目が、吹っ飛ばされた1人を一瞬目で追って、息を呑みながらも武器に手をやる。
その前に首を蹴り飛ばしてそのまま張り倒すと、心臓の当たりに手を置いた。この人は少し歳をいっているからか、心臓に年季が入っているね。


「さよなら」


そう呟けば、私の指先から漏れるオーラがゆらりと揺れて、その質を変える。折角の特質系だからと、仲間に訓練を付けられなんとか身につけた変化系を活用した技だ。これが、三つ目。『捨てる』ちからだ。内部からじわじわと破壊し、弱い部分に侵食して腐らせる。
心臓が壊死る音は、聴こえないし見えないけれど、それでも痛快。勿論気分はすこぶるいい。
心臓を抑え、のたうち回る男を見下ろした後、固まる最後のひとりに目を向ける。それから、その若い男を見て感嘆した。


「すごい、完璧の健康だ」


男は未だに動かない。私なんかに圧倒されるなんて、絶対にこのお仕事、向いていない。これで私がウボォーとかフェイタンとかフィンクスだったらこの人、意識は確実にないんだろうな。かわいそうに。


「こんなところで死んじゃうなら、臓器提供とか、したらいいのに……」


とても、残念に思う。


***


「はいおしまい!案外簡単だったね」


部屋に入り、目当ての宝石を手に取ったシャルが笑った。私も達成感から笑ったが、今日のざっと仕事を振り返り、すぐに笑うのをやめる。簡単だったが、決して絶好調ではなかった。
旅団のお仕事でなかった事が、せめてもの救いだと言えるだろう。シャルナーク以外に、こんな無様で間抜けなところ、決して見せられたものじゃない。今日の私は駄目駄目だった。
シャルはそんな私の心残りを瞬時に見抜いたらしく、私をちらと見ておどけた様に核心を突いた。


「でも、範囲が広がったって聞いたから期待してたのに残念だな」

「……それは、私が一番ショックだから。」


実は今日、ここに侵入する前の事────わたしの“ほしがり”が、きちんと発動しなかったのだ。
本当は、いつものように私がまずほしがりを使って最善のルートとタイミングで入り込む手筈だったのに。オーラを飛ばしてもどうしてか建物から逸れてしまう。それで、仕方なく地道にゆっくり監視カメラを見つけ次第壊し、じわじわ攻めることになったのであった。
シャルからひょいと投げ渡された宝石は、手のひらくらいの大きなもので、私の大好きな色の輝きを放っている。欲しくないはず、ないのに。


「……すてき、だよね」

「うん、まぁ、ルイの好きそうな立派な宝石だよ」


そうだろうとも。シャルの言う通り、私はこんな宝石が大好きだ。私のことなのだから、私が一番わかってるはずなのだ。それなのに、なのに。
私のオーラは、まったく、いつのまに私の意思と隔絶されてしまったと言うのか。嫌だと顔を背けるように、大好きな宝石から逸れるなんて、一体どういうつもりなのか私自身にもさっぱりわからない。
自分のことがわからぬなんて、いい大人が、未熟な子どものようなことを言って、恥ずかしいこと極まりない。誰に言っても、きっと笑われる。
しかし、シャルはそれ以上私を笑ったりせずに私の肩に手をぽんと置いた。


「ちょっと休めば治るかもしれないし!気にすることないんじゃない?」


私はシャルの言葉に、曖昧に頷いた。
とても、そうは思えそうにない。最早否定のしようもなく、私はここ最近、少し、おかしいのだ。私はそうはっきり自覚して、それから、恐ろしくてたまらなかった。

170102

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