スフェーンの誓い
「ええ!?クロロを見つけた!?」
1週間後、何気なくこの一週間何をしていたか、何があったかを世間話として話せば、シャルは大きな声を上げて此方に身を乗り出してきた。
私はその勢いに驚いて少し身を引く。見ればシャルもひどく驚いた様子で、私たちは間抜けにも目をぱちぱちさせながら、しばらく見つめあった。
三秒くらいして、私が思い出したように頷けば、ようやくお互いに視線が逸れる。シャルは顎に手を当て、うーん、と考えているようだった。
────確かにクロロを見つけるのは大ニュースだし、驚かれるとは思ったけれど。何をそんなに、唸るほど考えることがあるのか。
よく考えるシャルナークに感心しつつも私が小さく首をかしげていると、ぱ、とこちらを見たシャルが、どこかおそるおそるといったような、下から探り入れるような慎重さで、私に問う。
「団長がほしいの?ルイ」
「……ほしいって……」
シャルの言葉に、何とも言えない気持ちになる。
確かにクロロもそう聞いてきたし、私もそうなのだろうかと一瞬考えたけれど、私は、答えが欲しかっただけだ。答えを欲して、クロロの元にたどり着いた、だけだ。ただそんな抽象的なものも探せるとは思っていなかったが。
…というより、そもそもどうしてみんな、私でさえよく分かっていない私の能力を、ただ偏に“欲しいもの発見機”だと決めつけるのか。単に探索能力の幅が広がっただけなのかもしれないのに。
「団長はルイの手にはおえないよ」
「…そんなんじゃないよ」
「それでも、ルイのオーラが団長を求めてさ迷ったのは間違いないことだからね」
「それならたぶん、聞きたいことがあったってだけ。答えを欲しがって団長の元についたの。……そんなわけないでしょ、私達に限って。」
「あはは、下世話だったかな」
「そうだよ、謹んでよ」
ごめんごめんと謝るシャルから、私はすっと目を逸らす。────クロロを欲しいのは、違う。それは自分でもはっきりわかっている本当のことだ。私が人を欲しがったことはないし、クロロの元に辿りついたのは今回が初めて。子供の頃から一緒にいて、今回が初めてだ。それだけで欲しいなんて、馬鹿げてる。
それに絶対に、私なんかの手には負えない。わかってるから、手を出すことはまずない…はず。
ならばもっと強気で否定できるはずのに。そうできないのは、本当のところ、私の胸の底にある考えがあったからだった。
「………でも、ね、団長は……宝石みたいに綺麗で、それなのに、団長と比べると宝石は安っぽいなとは、思うの。くだらなくなる」
これも、真実だ。これは子供の頃からずっと、クロロに会う度思っていたことだから、きっと本当の私の気持ち。
1週間、ずっと考えていた。部屋にある今まで奪ってきた宝石を眺めながらずっと。そうすると、あんなに好きな宝石が、クロロの言葉を一つ思い出すごとに褪せていくのだ。
途中でそれが恐ろしくなって、これは美しい、これは美しいと言い聞かせ、価値を保とうとすれば、少しはましになったけれど。結局騙されているような変な気分だった。
そんなことをいった私を、シャルは不思議なものを見る目でまじまじと見てきた。
私も、自分の言ったことを思い返して可笑しいと思う。私らしくない。でも、これは私のせいじゃないもの。クロロが、クロロが変な事言うから。
宝石は目に見える。触れられる。とても冷たくて、尖っている。美しいけれど、どれもクロロの言う一番のお宝とは違っていた。
目に見えないなら、私の目では探せないな。透明ならば触れもしないし、温度がないなら、感じることもできない。それって結局、あるって言えるのかとすら思う。
だけど、そんなものを欲しいという団長は尊くて、私のほしがるものなんか、何だか、ああ、なんだか惨めだった。
「…ルイさ、そのままでいいからね」
「…変わるつもりない」
…ないはず、だけど。この一週間、否、この前の仕事からもう既に、私という人間は何処かしら、崩壊し始めているのかもしれない。
はっきりと返事をしたくせに、考えている様子のルイを見ながら、シャルナークは考える。────我らが団長がたかが宝石と同じ価値なわけはないから、それは当たり前のことではあるのだけど。
しかし敢えて、しかもあのルイがそんなことをいうとなると。あのいいかたは。
「(やっぱりほしいっていうんじゃないの?それ)」
彼は、そんな一抹の不安を頭の中から追い出す事ができずにいた。
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