シャルに「今までごめんなさい」と言われて、私は快く許してやった。
そしたらシャルは「なんとお優しい!」と言って泣き出した。
それはもう気分が良くて、堪えきれずに高笑いしていると、
遠くの方から「おい、起きろ」とか「起きて、俺」とかなんか聞いたことのある声。
そうして引き寄せられるように声の方へ行くと、シャルの謝りが夢だったことに気づく。
ちきしょう、せっかくシャルに改心してもらったのに。夢か。
悔しく思いながらもゆっくりと目を開けると、

私がふたりいました。


「…………えっ」

「おはよう、」

「ようやく目を覚ましたか」


……えっ?


「…………またゆめ?」

「え?ああ…そう思うのも無理もないよね。でも違うとおもうよ、さっきほっぺつねってもらったから」


つねってもらったという割には何の跡もないほっぺを指さしながらにこにこしている男の人。
それは私の目がいかれてなければ、鏡の向こうによく出現する人物に似ていた。


「ああ、ちがうな。恐らくこれは念だろう」


そしてその人のとなりにたっている人もおなじく、私が鏡のまえにたった時向こう側に立ってるひとでした。


「…戦争だ…」

「え?」

「ドッペルゲンガーに二人同時に会うとか…自分の奪い合いだ…!」

「ドッペルゲンガー?」

「違うぞ」

「じゃあ誰ですか!夢で貴方達に会うならまだ納得できるけど夢じゃないし!私今クロロだし!」

「お、おちついて?」


物腰やわらかそうなクロロが優しく私の肩をポンポンと叩く。あ、この人いい人…
ちょっと安心して、心臓を抑えながらこくこくと頷いたとき、ノック無しでドアがあいた。


バターン!!
「クロロクロロ!……えっ」

「ノック!…げ」

「お」

「あ!」


空気が固まり、沈黙。

のち。ノックもせずに突入してきたシャルナークは目を見開いて声をあげた。


「…っえええクロロが分身してる!ちょっと見なかった隙におもしろいことになってる」

「別に面白くないノックはどうした」

「寝てると思って…そしたらノックしたって起きないだろ?」

「確かにさっきまで寝てたな、こいつ」

「楽しそうな夢見てたねー」

「やっぱりね、だったらノック無駄でしょ。まぁ仕方ないから次からノックするけどちょっとクロロこっち来て」

「いやだ」


拒否するとやつはにっこり笑って私の方につかつか近づいてきた。
嫌な予感がして私が後ずさろうとすると、ぎゅんっとものすごい勢いで向かってくる手。
よけきれずに、私は思い切り頬をつねられた。


「いっ?!痛い痛い痛い痛い痛い痛いやめろこの痛いって痛い!」

「うわー、夢じゃないんだ!」

「痛そう、やめてあげなよシャル」

「わかった」

「この…!」


私がやめろと言っても聞かないくせになんなの…やっぱり私以外のクロロには権利があるっていうの…なんでこいつこの数分の間に分別してんの…。
解せぬ…とシャルを睨んでいると、クロロさん(きりっとした方)は考え込むようにじっとしていて、
クロロさん(優しそうな方)は私の方にちかづいて大丈夫?と言った。


「もうシャル、ちゃんと謝りなよ」

「えー、でもだって三人だよ?三人!二人からじゃなく。誰の念ぬすんだの?俺のことも分身できる?」

「できたとしても絶対やらない」

「こらー?まずは団長に謝らなきゃだめじゃないか」

「…わかったよ。ごめんね団長」

「!!」


謝った…!てことは
許してやる→なんとお優しい=いげん


「…仕方ない許してやる、ふっふっふ、ふはははは」

「もう二度と謝らないよ」

「このっ…!」

「こっちのシャルは結構雰囲気違うんだねー…、こっちのクロロのことあんまりいじめちゃだめだよ?」


何だかオーラも弱々しいし可哀想。
優しそうなクロロさんにそう言われて心に風が吹いた。なんだこれ…つらい…


「…こっち…?じゃあ分身じゃないの?なんだ…俺も分身したかった」

「するな」

「シャルに分身してもらったほうが仕事もはかどるんじゃないか?」

「はかどったら困ります!」

「そうか。…こっちの俺達は一人の上に仕事嫌い、シャルは随分攻撃的だな」

「…そっちの俺はどんな人なの?」


観察結果を報告するように淡々と呟いたきりっとしたクロロさんに、
シャルが表情を変えずにそう問いかけた。そこでわたしはピンときた。


「!!あれですね、パラレルワールド、というやつだな!!」ドヤ

「団長ややこしくなるからちょっとだけ黙ってて」


え……ひどくないか…


「うーん…どう説明すればいいかな。シャルはもうちょっと俺達に優しいよ?」

「なんだ、じゃああんまり変わらないね」

「(は…?)」

「俺達は双子なんだ。俺が弟で、こっちが兄さん。兄さんが団長やってて…でもこっちのクロロはちがうんだね」

「へぇ…クロロが双子な世界もあるんだ…面白いな。できればもっと話ききたいんだけど」


この人たち…なんであっさり溶け込んでるんだろう…みんな安定しすぎだろ…
当事者の筈なのにおいてきぼりになってしまい、いまさら追いつくのも面倒なので朝ごはんについて考える。明日は鯖が食べたいからパクにそう言っておこう。ゼリーもデザートにつけてもらおう。
とっておいたみかんゼリーのことを思うと朝ごはんがいっきに楽しみになり、自然とにこにこしていると
もう一人の自分が近づいてきた。


「兄さんがシャルに説明してくれるみたいだから、俺達も話そうか」

「え、ああ、うん、はい…あ、あの、さっきは、ありがとうございました。つねられたとき」

「え…?俺なんにもしてないよ?」


えっまっ眩しい…!!
なんですかそれ…!


「神…」

「かみ?」

「なんでもないです…あの、クロロ、さん?でいいの…?」

「うん、いいよ」


にこっと、人懐こそうな笑みを浮かべるクロロさんはとても可愛かった。いや、今は自分の顔とそっくりだから自意識過剰みたいだけど…
夢で会ったクロロさんは、どちらかというとこの人のお兄さんに近い雰囲気だったけど、
でも不意に見せる表情がこの人に似ていたと思う。夢だから、ふわふわとしか思い出せないけど。
パラレルワールドとはいえ、やっぱり似るんだな。


「あの」

「なに?」

「クロロさんは…こっちに何しに来たんですか?」

「えっと…まぁ来たくて来たわけでもないんだけど…」

「そりゃそうだよね!なんか変なこと聞いてごめんなさい!」

「そんなに慌てなくていいよ!まぁ…ほんとに俺も良くわかんないうちにここにいたから君のこと起こしたんだけど」


とにかくここはパラレルワールドで、俺達が君のところに来たのはきっと意味のあることだと思うんだ。


「意味のあること…」

「そう。俺ね、いろいろ事情があって。みんなといられる時間ももしかしたら少ないのかもしれない」

「えっ…」

「だからね、君もみんなとたくさん一緒にいてね」


にっこり。
優しく綺麗に、どこか寂しげにクロロさんは笑った。
それは、ほんとうに儚げで。私まで、さみしい気持ちになった。

どんな事情なんですか。ききたかったけど、聞けなかった。
事情。事情か。私には大した事情ない。空気なだけで。だから
大したことも言えないし。わかるよなんてことも言えないし。
みんなと一緒にいるよ!とか元気にいうのも場違いだし。でも。


「おれ、いくら遠くへにげてもシャルに見つかって巻き込まれるんです。本屋やりたいのに」

「そ、そうなの?」

「団員全員引き連れて私を回収しにくるんです。怖くないですか。だから離れてもまた会えるんですけど」

「うん」

「だからそっちも離れてもまた会う方法、あります」


私なりの言葉でいいから、なにかいおうと思った。はい、とかしかいえなかったら、私は後悔する。

そんな自己中心的な考えで私が言葉を紡いでる間、クロロさんはじっとしていた。
そしてそのあと、またにっこり笑ってくれた。


「そうだよね」

「…はい」

「生まれ変わってもまた会えるんだよ、君もきっとそうだ」


…わたしも?
というかまって、クロロさん死ぬの…?それじゃあ私軽々しく喋りすぎじゃなかった?なんも知らないくせに!
なんだか意味深なことを悪戯っぽく言われたが、そんなことも忘れ自己嫌悪した。結局後悔だ。
私が頭を抱えた時、クロロさんのお兄ちゃんクロロさんが、
クロロさんのことを呼んだ。


「そろそろ帰るぞ」

「え、帰れるの?」

「そんな気がするんだ」

「勘ってやつ?マチみたいだなぁ」


くすくすわらいながら、クロロさんは私に背を向けた。
私が慌ててその背に謝罪の言葉を投げ掛けようとした時、クロロさんがふとしたように言った。


「ねぇ兄さん、大切な人と離れてもさ、会う方法はあるんだって」

「うぐっ!!」

「ほう」


兄貴に報告とか…ね、根にもってるの!?やっぱり!そうなの!?ごめんなさいほんと!うわぁもうしにたい!


「少し理想的な話だな、それは」

「うわぁぁすみませ…」

「いや。
…お前は、前世の親友には会えたのか?」


…え?

それは、どういうことですか。
そう問い返そうと思うより先に、
クロロさんがまたね、と言って手を振った。
そして、ふたりは泡みたいにしゅわっと、溶けたようにきえてしまった。


「…どういうことですか」


誰もいない場所に、問いかける。
返事は帰ってこなかった。
いや、というか、どういうことかは大体わかるけども。
私は誰にも前世のこと話してないし(フェイタンには軽く話したけどあれはノーカウント)、親友なんて、私薄情なことに顔も名前も覚えてないよ。

それでも、そうか。
また会えるのか。それとももう、会ってるかもしれない。

クロロさんがこっちにきたことは、意味のあることだとクロロさんは言った。いまになってほんとうに、なんだか意味があるとおもえた。私にとっては意味があった。クロロさん達は、どうだっただろう。意味があっただろうか。
クロロさん達と私は、また会えるだろうか。


「…ねえ」


シャルがふいに私に話しかけてきた。シャルのほうを見ると、シャルは真顔。えっなに。


「親友いつのまにつくったの?」

「えっ…いや…まぁな」

「ふーん、へんなの」

「変っておまえな」

「変だよ。クロロといると変なことばっかりだ!あはは!」


けらけらっと楽しそうに笑ったシャル。本当に失礼なやつである。こんなやつに分身されたらたまったもんじゃない。


「変なことに合うのは俺のせいじゃないお前のせいだ」

「さっきさ、最後に怒られちゃった。団長のいうこともっとちゃんときけよって」

「そうだ、きけ。今もちょっときいてないだろ」

「きいてるけどね、ちゃんと。あ!そんなことより仕事!」

「あしたにしよう!」


このあと
引きずられて仕事に出ました。


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