小さな思いやり


あの後大変だった。
朝になっても結局身動きが取れず、寝不足でへろへろになりながら腕を外そうとぐいぐいしてたら
途中でフェイタンが現れ、次のターゲットの家まで距離があるから今から移動しよう、というような事を言ってきた。
そこまでのやりとりは私の身動きが取れてさえいればいたって普通だろう。大変だったのはその後である。

私が、「動けないからごめん、明日ね」と言ったら、
フェイタンは間髪入れずに思い切り私の腕をすごい力で引っ張ってきたのだ。大きなカブを引っ張るようなノリだった。
あまりの勢いにシャル起きちゃう!と思ったけどシャルは全く起きないし(気持ち良さそうな寝顔しやがってこのやろ)
それなのに何故か私の腕をホールドする手はちっとも緩まないし、フェイタンはやめてって言っても聞いてくれない。
肩外れる…とか思って意識が若干遠のいた。それを許さんとでも言いたかったのか。その時、シャルが寝返りをうった。
勿論私の腕を掴んだまま。つまり腕を思い切りひねられた。悲鳴が上がった。わたしと、わたしのほねの。
そこでようやくフェイタンは手を離してくれた。


「うぅ…フェイタン…いたい…」

「………」コォォ…

「…え?なんで手にオーラ集めてるの…?」

「切る」

「え!?何を!?念の為聞くけど何を!?」



そんなこんなで色々試そうとしてきたフェイタンは
最終的に「団長がシャル引き摺ればいいね」とか言って名案だというようにくわっってしてきたけど、当然それは却下。
それ私疲れるしシャルボロボロになるから。そう言っても諦めきれないらしいフェイタンに手伝って貰って、数十分後なんとかシャルの手から脱出。

そしてそのままぐいぐい手を引かれてアジトを出てきた訳だが……


「シャル寝てるのに良いのかな…」

「別に留守番シャルだけじゃないね」

「いや、そうだけど…」


何かあいつ張り切ってたから、良いのかなぁともごもごしてたら皆はばっさりと「起きないのが悪い」と切り捨てた。皆つめたい!


「まぁ…無理に起こすのも可哀相だしね…良っか」

「そーだそーだ、ほっとこうぜー」

「な、あいつはもう十分働いただろ」

「!!」


あいつは、充分働いた。そんなノブナガの言葉に、はっとした。

なるほど、思いやりだったのか!!
みんな、シャルはもう十分働いたから休憩させてやろうと思ってたんだ。みんなツンデレだなぁ…


「シャルがいなくても俺がその分片付けてやるから、おめぇら邪魔すんじゃねぇぞ」

「は?そっちこそ邪魔すんじゃねぇよ。俺一人で充分だ」

「あ?シャルの分は俺が請け負うってんだ」

「何だと…」


思いや…り…?

…なんだか疑わしいところが結構あるけど…まぁ…そういう事にしておこう。
今はそんなことよりこれから突入するお屋敷に集中しなければならない。今回はマフィア様のお屋敷じゃないから
前回より危険は少ないけど…代わりに通報という手段を持っているから、数でかかられたら面倒だな…
死人がでなきゃいいけどなぁ…


「団長、命令を」

「ああ。じゃあ死人ゼロで」


命令を、なんていうけどちょっとでも長くすると
既に全員消えていることが多いので、ものすごい手短にいうとひさびさにみんな聞き取れたらしく、途端にブーイングがきた。


「そりゃねーぜ団長!楽しみが減る!」

「楽しみとかいって他人の命を巻き込んじゃだめだ!」


勝手な都合を述べるウボォーさんにぷんすかと怒ると
何人かがため息をついた。


「はぁー…本当団長って変わってるよな」

「そうね、昔からそうだもの」


口々に言う皆に、うっと言葉が詰まる。
そりゃ、私は流星街育ちの子じゃないもの…
君らにとっては変わってるかもだけどさ…
でも変わってるとかないとか、そんなことは今問題ではないのです。


「とにかく、死人ゼロ、団長命令、やぶったら、許さん」

「あーはいはい、わかったよ」

「しょうがないね」


投げやりなのが気になるが、どうやら伝わったらしい。
ぐっとガッツポーズすると、数人がまたためいきをついた。
こいつら今にも団長命令やぶりそうである。
これ以上念を押したところでこの態度は変わらないだろうからもうどうしようもないけど。


「よし、行くぞ」


それにしても、シャルがいなかったからか、
それとも私が手短にしたからか、今日はまともな会話ができたなぁ!
ルンルン気分で、私は屋敷に足を踏み入れた。さて、今日は何人生き残ってくれるかな…

140309



prev | next



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -