【「不可能な逃走劇」の後の話】


ゾルディックにやられ、ズタボロの惨めな姿のままオークション会場をさ迷い、結局アジトに帰ってきた私をシャルが怒った顔で出迎えた。



「もーっ結局こないから心配しただろ!」



とかいいつつ片手にビールの缶をもっている奴の言葉を果たして信用していいものだろうか。因みに私は信用しない。
ので、とりあえず無言で仕事成功を祝ってアジトで飲んでいる皆をすり抜けて救急箱をとった。
その間シャルはついてきて「聞いてる?ねぇ聞いてるの?」と粘着質に叱ってきた。
団長こんなにがんばったのに!傷だらけなのに!お前のせいだよ馬鹿!寧ろ褒めろ!
やはり涙目である。そしてそれから二十分後、ようやく理不尽な説教が終わって、いざシャルに怪我の治療を頼もうとしたら
言いたい事を言い終わったシャルの姿はもうそこにはなかった。あまりの仕打ちに涙も引っ込んだ。
じぶんでやるよ!もうじぶんでやるよ!



「うーん…でも、背中どうしよう…」

「僕がやってあげるよ…◆」



届かない背中の治療をどうしようかと悩んでいると、背後から、全身にねっとりと絡みつくようなしゃべり方と声。
ぞわりと鳥肌がたつ。震える身体をなんとか抑えながら恐る恐る声の方をみれば、

やはりヒソカさんがいらっしゃった。



「…や、あの、いいから、向こう行っててくれ」

「遠慮しないで、さぁ…傷をみせてごらんよ…◆」



舌なめずり。ひぃ…!!
もうまず顔がやばい、治療する奴の顔じゃない。こわすぎ変態狩られるどうしよう。
助けてくれる人は居ないかと周りを見渡したが、みんな酒を飲みまくっていてこっちを見ない。
こんな時に酒に夢中とか!団長ぴんちなのに!みんなの団長がピンチなのに!!



「く、来るな…」

「大丈夫、痛くしないよ◆」

「いやほんとに…本っ当にいいから…!ひい、こっち来るなって…!」



じりじり。消毒液片手に壁際まで追い詰められる。逃げ場が…ない…詰んだ…
いや、でもまぁ、流石のヒソカも私をみんなのいるこの場で殺したりはしないだろう。命が無事なら大丈夫、乗り越えられる。もう腹を括るしかない。
とうとう諦め、肩の力を抜いてヒソカの方に腕を差し出す。すると、にっこり笑ったヒソカにその腕をとられ、痛くないようにか控えめに消毒液をかけられた。染みるのを覚悟してたのに、あれ?と思っていると、そっと絆創膏をはられる。…あれ、普通。
ていうかうまい。ほんとに痛くない。思わず感心して頷いた途端。ヒソカの指先が絆創膏の上をなぞる様に滑り、そっと撫でられた。ぞわっ



「いや手つき、マジやめて勘弁してくれほんと嫌だヒソカかえれ」

「我が儘だなぁ、痛くなかっただろ?◆」

「うんすごいでもほんと無理」

「じゃあ次は反対の腕出して◆」

「いや無理だからもう………いや、ちょ、くすぐったっ…くすぐったい!わざと!?あーもーしんどい、ヒソカ超しんどいやめてあはは痛い!」



生理的にさよならしたくなったヒソカを追い返そうとしたら今度はめちゃくちゃニコニコしながらくすぐるみたいに反対の腕の治療をはじめたので、
ただでさえ怪我で腹筋痛くて、笑うだけで激痛なのにてめえふざけんなよって感じだったが、もう色々としんどすぎてテンションがおかしくなっていたらしい。友達同士でふざけるみたいにヒソカの肩を笑いながら押し返した。そのとき、



ガツンッ



すごい音がして、ヒソカがこちらに倒れこんでくる。えっ重っ!
突然の事に驚いたと同時に、何故今自分はヒソカとじゃれていたのかと、はっとして薄ら寒くなった。自分が怖い。思っている以上に疲れていたようだ。
そして、ようやく何故ヒソカが倒れるに至ったのかと考え、ふと顔を上げると。
ヒソカの後ろから、ヒソカを殴っただろう救急箱を手にした、シャルナークくんが笑顔で現れた。



「団長、俺がやるよ!」



明るい声でそういうシャルを見て、それから血のついた救急箱に目をやる。
……ものすっごく手当されたくない…!救急箱で殴るって、お前…!それは人を手当てするものであって、攻撃用じゃないよ!?
そこをまず履き違えている奴に、手当てなんて出来るわけない。お帰りください。



「元の場所に帰れ、シャルナーク」

「あはは、遠慮しないでよ」

「全然してない」

「まぁまぁ」



ぐわしっと乱暴に腕を掴まれ、私は痛みでシャルを睨みつける。しかしそんなのお構い無しで、怪我の具合を確認したシャルはふんふんと頷いた。
そして、ん?と首をかしげた。



「背中も?」

「ああ、うん…ほぼ全身…」

「あー、なるほど。じゃあほら上脱げ!ふは!」

「えええふはってなに!?ムカつく笑い方!というか俺はお前の荒治療を受けるつもりは毛ほどもない、離せ!」

「ほらほら何恥ずかしがってんの?いつも裸にコート着てるじゃん!」

「恥ずかしがってないし、嫌がってるし!というかてめぇ馬鹿にしてんのか!!」



私がいくらぎゃーぎゃー騒いでも、みんなも喧嘩したりでわいわい騒いでいるのであっさりかき消され、いつも助けてくれる人たちも助けてくれない。クロロイズショッキング。
ていうかシャル酔ってるの?本当しつこいよ?やめろって言ってるだろ?そういうの良くないよ!
嫌がってる人に無理矢理何かするって、いじめっていって社会問題になってるんだよ!
私がいくら訴えても聞かないシャルは、とうとう私のシャツを剥ぎ取ると愉快そうにケラケラ笑った。そして、



「ほら!」



どばばばばばー


「っいったぁぁぁぁぁあ!!!!?い、ぐ、ぁああてめっなに消毒液っあたまからまるごとかけてんだコラァァァいったぁぁあ」

「団長も細かいなぁ、これなら一気に終わるだろ」

「うわっ目にはいってき…いたいいたいいたいいたいマジ笑えないほんとほんとにいたたたた」

「あはははは、本性でてる。キャラ壊れちゃうよっ」

「ちっ…ちがうぞこれはだな、…ひ…い、いたい…」

「あはははは!!消毒液まだあるけど、いる?」

「いるわけねぇだろてめいい加減にしろよいたいぐぐぐぐ」

「しょうがないなぁ、クロロがうずくまったせいで腹まで届いてないし、もう一回ね」

「いやだぁぁぁぁあ」



輝かしいシャルの笑顔。そして消毒液。
それを見てもうダメだとおもった。
そのとき、


がしっ
誰かが消毒液を持ったシャルの手を掴んだ。



「……やめな、団長いやがってるだろ」



クールにそう言ってシャルを睨みつけたのは、



「マチ…!」



お前は…おまえはいつもたすけてくれるよね…!
なんてかっこいいの、惚れちゃう!



「退きなシャル、続きはあたしがやる」

「やったー!マチならあんし、…ん…!?え、なんで糸出した?」

「これがあればなんでも治る」

「いやいやいやいやちょっと待ってマチさん!!」

「ちょっと、団長怯えてるよ」

「どけって言ってるでしょシャル」

「残念だけど、今回はマチの出番はないよ。これで十分」



そういってじゃんっと再び出した消毒液を
マチはしかめっ面で勢い良く払い除けた。



「「「あ」」」



払い除けられた消毒液は、
音もなく宙を舞って…


どばばばばばば



「ぎゃああああああああああああ!?」

「団長!!!」



雨のように私に降り注いだ。何このお約束やめてまじ、ちょ、痛い痛い痛い痛い痛い痛い



「めが…っみえないよいたいいたいいたい」

「だから消毒液はだめだって言ったんだ!」

「糸の方が絶対だめだったって!」

「早く退きな!団長はあたしが治療する」

「今回ばかりはマチに任せておけないな」



そのままのたうち回る私を放置して
口論をはじめるマチとシャル。いや、なんでもいいから何とかしてよホントに、
目が見えなくてどうしようもない痛い痛い



「だから僕に任せておけば良かったのに◆」

「ヒソカか…!?うんその通りだ、俺が悪かった助けて」

「しょうがないなぁ◆」



こちらに近づいてくる足音。
これで助かる…そう思っていたら。
何かが崩れる凄い音がして、ヒソカのオーラが消えた。



「ヒソカは黙ってて」



マチさぁぁぁあん!!!
今日はどうしちゃったのおお!!!


そのあと再び口論を始めたふたりに、
私は力尽きて倒れた。過酷……!!

130828


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -