「あの、鎖野郎」
「………」
「名前さ、鎖野郎って呼ばれるの嫌じゃない?本当の名前…」
「貴様に名乗ってやる名はない」
「…そっか、そうだよな」しょぼーん
「…鎖野郎」
「……」
「俺はクロロっていうんだ」
「聞いていない、それに知っている」
「そ、そうか……」しょぼーん
「…………」
毎日、会えばこんな調子だ。こうも腑抜けていると、何のためにこいつを鎖で縛っているのかわからなくなってくる。
────幻影旅団の団長というのだから、私は今まで、己の憎しみをすべて込めて殺すに値する、最悪で凶悪で、残虐で冷酷な、言葉も通じないようなそんな奴を思い描いていたのに。
初めは確かにこいつも、そのように振舞っていたように思う。なのに突然泣き出し、態度を変えてからはこのとおりだった。こんなの、何かの罠に違いないし、そういう手口なのだろう。小賢しいやつだと思った。
『お願いだから、みんなを殺さないで』
頼みなんて聞いてやるつもりはなかった。
『なんでもする、私を殺していい』
『だから、パクのこと、殺さないで』
散々泣きじゃくっていた奴はそう頼む時、顔を押さえて、なんとかという風に泣くのを堪え────静かで穏やかで、温もりを含んだ、強い声でそうぽつりと言った。
それは、これ以上になく腹の立つ頼みだった。────血も涙もない、お前らのような奴が。そんな、普通の人間みたいな、人間の真似事なんてするな。お前も殺すし、パクノダも殺す。
そう、言いたかった。それをすんでのところで止めてくれたのは、私の大切な仲間だった。
『…こうして彼女がここにきたということは、お前に人質としての価値はあるようだな』
『え?』
『お前の言葉が嘘だったと言ってるわけじゃない。…お前らを生かす、条件を言おう』
そうして、私が苦々しく吐き出した言葉を拾い上げた奴が、ふたたびぽろりと涙をこぼしたのが、ひどく憎らしく、そしてどうしてか羨ましくて、本当に、許せなかった。
なにより今、小賢しい憎らしいと思いながらも、奴が私の返答に肩を落とす度、その態度があまりにも真実めいているように思えて、本当に落胆しているのではないかと信じてしまいそうになることが、一番、許せない。
160809