緋の眼がどうこうとか、何だかさっぱり意味のわからないことを言う鎖野郎という男の娘。
何を言っているのかと首をかしげながらも、奴が私達をぶち殺したいということだけはわかった。
だからみっともないけど、私は彼に命乞いをしたのだ。お願いです、みんなを殺さないでください。と。
正直通用しないだろうと思ってた。けれど、鎖野郎の仲間のおかげで、彼は私にものすごい殺気を飛ばしてきつつも、私の一番の願いは聞き入れてくれたのだった。
代わりに彼は、私を人質として家に置くことになったらしい。そうして旅団のみんなに、緋の眼を探させることにしたそうだ。
「パク、」
「…団長」
「大丈夫だ、俺は死んだりしないよ。だから此奴のことは、みんなに何も話すな」
「…でも」
「大丈夫、俺を信じて欲しい」
心配そうにするパクノダに、信じてもらえるように、出来るだけやわらかく笑ってみせる。
私は、パクの方が心配だよ。死んじゃうんじゃないかって。お願いだから、そんなことしないでね。
「俺も、パクの事信じてる」
「────」
「だから絶対、それだけは裏切らないで。」
まっすぐにパクの目を見てそう言えば、パクは目を見開いた。ほら、優しい彼女だ。案の定私を助けることを考えていたらしい。
「…っええ、ええ……わかったわ…私も、クロロを信じてる」
笑おうとして失敗したような、つらそうな表情に再び泣きそうになるが、ぐっと堪えて、そうやって私は優しい彼女としばしのお別れをしたのだった。
鎖野郎の鎖は、相変わらず冷たい。ついでに、彼は心も冷えきっているようだ。なんていうんだろう。こういう人に会うと、自分達がいかに悪いことをしてきたか、世間にどんな目でみられているのかが非常によくわかる。そうだ。私達は世間に蔑まれている。にくまれているのだ。
この鎖野郎になにをした覚えもないけれど、何もしてなくても、外道を脅して使うのは悪いことではないと思うので従うよりほかない。
見逃してくれただけでも相当ありがたいことなんだ。そう思う。
そんなこんなで、私は鎖野郎の家にやってきたのであった。完。
嘘だ。完とはならない。
これから私のどきどき!敵との同棲生活!が始まるのだから。何が待ってるかな、拷問かな。怖い。
怖いんだけども、だけども、誰かの家に来るとか初めてでそわそわする…!いや場違いなのはわかってるけど、だって…!こんなの…!
ホームステイみたいじゃないか…!!
というか、居させてもらうからには
何か役に立った方がいいんじゃ!
「なっ何かお手伝いすることとか…」
「なにもない」
そわそわと言った私に背を向けた鎖野郎はぴしゃりと言った。私の言葉を食いちぎるような勢いであった。怖い。いやでも私が悪い。
だって私人質だもんね…ホームステイしてるんじゃないもんね…
「だよね…」
他人に、しかもよくわからないけど敵に、部屋を引っ掻き回されたくはないだろう。
わかっていたけどしょんぼりした。鎖野郎はそんな私を見て気に食わなそうに片眉を上げた。
もう私が何を言ってもこの顔をするのだ。さすがに困ったものである。
「…その態度でうちのボスに近づいたのか?」
「え?」
「その腑抜けた顔を今すぐやめろ、虫酸がはしる」
「ふぬけっ…!!」
泣いてしまったのでもう繕いようもないと思って素で話すことにしてたけど、どうやらそれが気に食わなかったらしかった。
けれど慌てて真面目な団長モードの顔をしたらものすごい憎しみを込めて睨まれた。結局どっちも気に食わないんじゃないか。
これからどうしよう。
みんな、私のために緋の眼を探してくれてるとはあんまり思えないけど…
電話で伝えた時のシャルはだいぶ慌てていたように思うから、大丈夫だと思いたい。
私がこの共同生活のうちに殺されてしまう前に、早く見つけてくれますように…!
150914