>> 【ミト成り】ヒーロージンさん



「ジン、待ってよー」

「ほら、早く上がって来いよ」


だってこの木登りづらいんだもんー
なんて泣き言言ってみてもジンは自力で上がって来いという。
私が落ないように見ててくれるのは嬉しいけどどうせなら引き上げてほしいな…
でも置いてかれるのはいやなので一人で上がるしかない。


「そこは、その枝に足をかけろ」

「こう?」

「そうだ、」

「よい、しょっと、うわ、高い」


少し後ろを振り返ると、意外に高くて身震いする。
下は見るなよ、とジンが言った。確かに見たらもう登ることも降りることもできない…
今更戻ることの方が難しいのは私にもわかるので、ジンの言う通りにただただ登った。


「ほら、あと一息だ。つかまれ」

「あっありがと…!」


差し出されたジンの手に掴まるとゆっくり引き上げられる。
そうしてやっと追いついて、太い枝に腰をかけた。


「はぁっ、のぼりきった…?」

「まだ上はあるけど今日はここまでな」

「まだあるのかー…」


上を見上げ、ほんとに
まだまだ高い木に肩を落とした。


「まぁすぐ登れるようになるさ」

「わたしジンみたいに猿じゃないもん」

「木登りしたいっていったのお前じゃねーか…」

「言ってないよ、いい景色が見たいって言っただけ」

「じゃあほら、見てみろよ」


と、ジンは遠くを指さした。
その先には、海。


「…おわ、きれい!」

「だろ?上に行ったらもっと綺麗だぜ」

「ほんと!?行きたい!!」

「あー、また今度な」

「えーそんなぁ」

「ここだって結構高いんだぞ?」

「……え、」


言われて、ふと下をみると。

ほんとにたかい。
少し怖くなって、足がすくんだ。
と同時に枝から足を踏み外す。



「……あ、」


おちた、
そう思った時には、高かったくせにもうすぐそこに見える地面。
ぶつかったら痛いだろうなぁ、そう思って私は目をぎゅっと瞑った。

瞬間、誰かに抱きとめられたような感触と、強い振動。
そして、とっくに来るはずの痛みがない。


「…!?」


恐る恐る目を開けると、ジンのすごく怒った顔が目の前にあった。


「ばか!!もう連れてこねーぞ!?」


え、連れてこないだって!?
……あれ、というか…


「…痛くない」

「そりゃあな」

「…あれ?」

「…まぁ、危ないところではあったぞ、」


よく周りを見ると、すぐそばに地面がある。
ジンはそこに私をおろして立ち上がると、しかめっ面でふん、と私を見下ろした。
助けてくれたらしいと頭が理解する。確かに危なかった…ジンがいなかったら骨折もんだ…
小さくお礼を言ったら、ため息を吐かれた。


「心配ばっかかけやがって…」

「ごめんなさい…だからこれからも連れてきてね」

「おい…」

「おねがい!」

「…はいはい」


はいは1回です。
そう言ったら髪の毛をぐしゃぐしゃにされた。私が睨むと、
「危ない事ばかりするくせに偉そう」と更に髪を崩されてその上また溜息を吐かれた。


「罰としてお前勝手に動くの禁止な」

「えっ!?そんなぁ…」


勝手に動くの禁止ってつまんな…!
思わずしょぼくれる。そしてそれ以降何も言わないジンに
ちょっとだけ理不尽な怒りを感じ始めたとき、突然手に温もり。
ばっと顔を上げたら、いつもみたいに笑っているジンと目が合った。


「しばらくは離してやんねーから」


んべ、と舌をだしたジンに少しだけムカっとくる。
子供扱いしたうえに馬鹿にしやがって……


「なに、わたしと離れたくないのジンったら、やだー」

「お前ってたまにませた事言うよな、ガキのくせに」


ほらまたガキ扱い!
ほんとはアンタよりずっと年上だったんだよ!
なんてそんなことは言わないし、今は違うから言えないけど…くやしい…


「てかジンだって子供でしょ!?」

「お前よりは大人だぜ」

「だまれ!てをはなせ!」

「やだね、お前がはぐれて誰が叱られるかわかってねぇだろ。俺だよ!」

「私じゃなくてジンがはぐれてるの!」

「はいはい…お、あの鳥すげぇな!追うぞ、ミト!」

「え、ちょっ」


話の最中に鳥を見つけたらしいジンが
突然手を引っ張ったせいで対応できなかった私はつんのめる。


「待って、はやい!」


文句をいったら、振り返ったジンが
めんどくさそうな顔をしていて、それを私が認識した瞬間視界が不自然に揺れた。


「うわっ!?」

「ったくしょうがねぇなぁ」

「えっえっなに!?」


思考が混乱でぐちゃぐちゃになっているうちに、
景色がびゅんびゅん変わる。顔を上げたらジンが見えた。
何か軽々とおひめさまだっこされてる…!?


「おい、ちゃんと捕まってろよ、振り落とされてもしんねーからな」

「…しんねーって言ったってジン怒られるよ」

「……そーだな…じゃあ落ちんな絶対」

「…おう」

「よし。あとあんましゃべんなよ舌噛むから」

「………うん」


私ひとりじゃ絶対見れない、速くて高くてきらきらした景色が流れていく。
いつもの風景なのに、それよりもっと綺麗なその景色をジンはいつも見ているのか。
そう思うと、少しだけジンを知った気がして嬉しかった。
きっと大人になったら見えなくなってしまうだろう景色を、
きらきら輝く空を、海を、森を、その全てを見ようとするジンを、
私は目に焼き付けようとしてみた。

あと。
こういうの、誰にでもやらないでほしいなー
なんて小さくねがってみる。


130804
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