>> 普通の人なヒソカ

【第4次試験での話】


今しがた戦っていた男をヒソカはじっと見つめた。
死ぬことが決まっている人間をわざわざ殺すなんて全然したくなかったけれど、
最後まで戦いたがっている姿が可哀想だったので仕方なく戦ってやったのだ。
そうしてやっぱり死んだ男の最後を見送り、好血蝶が寄ってくるのを見つめた。

しばらくそうしたあとヒソカは周りに誰もいないことを確認すると、
珍しくため息を吐いて倒れ込むように地面にすわった。
気づけばあのねっとりとした彼独特の空気はいつのまにか完全に消えていて、
警戒をすっかりといたらしいヒソカは目を瞑り、そのまま寝転ぶ。
その姿は実に無防備で、すきだらけだった。それには襲撃されたところで負けないという自信も
含まれているようにも見えたが、それでも今のヒソカは明らかに無防備だ。
小鳥が飛んできてヒソカの肩にとまる。ヒソカはゆっくり目をあけ
小さな鳥を見て微笑みを浮かべ、やさしく一撫でするとまた目を閉じた。
そんなおだやかな空気に毒されたかのように、うさぎやリスなどもヒソカに擦り寄ってくる。


「よしよし、一緒に日向ぼっこしようか」


気配を感じ取ったヒソカは、そういってへらりと無気力に笑った。普通にイケボであった。
世界の平和を全力でアピールしたかのようなその光景は彼の奇行ぶりと
変態ぶりを知る人間が見ればぞっとするどころではないものだ。まさに奇行。
そんな奇行種ヒソカがそうおもわれていることも知らずにのんびり日向ぼっこをしていると
突然、動物たちが一斉に逃げていく。彼が何かしたわけではない。
不思議に思いヒソカが再び目をうっすら開けると、


「や、ヒソカ」

「っぎゃああ!!」


全身針まみれの人間と目が合った。ヒソカが飛びのくと、
針まみれ人間ことギタラクルは呆れたような目でヒソカを睨めつける。


「うるさい」

「ご、めん…イルミか」

「今はギタラクルだけどね」


そういいつつ顔の針をぬき、変身を解いたイルミの
風になびく黒髪を見て安堵の息をもらしたヒソカは、奇行で片付けられないほど
明らかに試験中の他の受験者に見せていた人物とは別の者だった。


「あれ、今仕事モード?」

「まさか、休憩中だよ」


ヒソカが普通にあはは、と笑うとイルミは目をぱちぱちさせて
「ほんとだ、比較的気持ち悪くないから素だね」と言った。
その言葉にヒソカは途端に項垂れる。


「ひどい…」ショボーン

「その顔やめてよ、腹立つ」

「生まれる前に言って欲しかったな、それ」

「そういうことじゃないんだけどね」


そう言いながら、イルミは倒れている男に目を移してあれ、と声をあげた。


「戦ったんだ」

「うん、やだったけど可哀想だったから」

「へぇ、ヒソカは戦わないものだと思った」

「相変わらず意地悪だね、僕と戦わせるために逃がしたくせに」

「や、だって可哀相だし」

「ていうか、イルミのせいで怖がってみんな逃げちゃったじゃん。みんなに謝ってよ」


む、と睨みつけてもイルミは知らん顔で
ふいっとそっぽを向いた。ヒソカは抗議の声をあげる。


「またそうやって!イルミには常識というものが」


がさっ!!

突然背後の草むらから物音がして、二人はゆっくり振り返る。
走り去る男の姿をしっかり目に映したふたりは顔を見合わせた。


「見られた?」

「もうばっちりね。常識を語るヒソカが異様過ぎて逃げたんでしょ」

「失礼な…髪の長い見知らぬ誰かさんだってよっぽど不審だよ。
まぁとりあえず…お互いにあんまり都合がよくないね、どうしようか」

「今から追いかけて忘れるまで殴るのは?」

「イルミサイテー」

「はははは、冗談だよ。素のヒソカは冗談が通じないから嫌だね」

「イルミのは冗談に聞こえないから…」


そういってヒソカは肩を竦めると、
場の空気を改めるように咳払いをした。


「ごほん、あー……
まぁ彼が喋ったところで誰も信じやしないよ◆
イルミが言わなければ問題ない、ばらさないでね◆」


振り返ったヒソカがいつもの空気、いつもの口調でそういうと
イルミはため息混じりにうなずいた。


「はいはい、お前もね」

「了解◆」

「まったく、何が目的でそう分けてるのか知らないけど、やっぱ変人には変わりないよねお前。
結局どっちが素なのか、たまにわからなくなるし」

「さぁね◆でも両方知ってるのはイルミだけ。君を信用して素を見せてるか、
君が好きだから無害を装っているか、どっちにしてもイルミは僕にとって特別なんだ◆」

「きもちわる」

「……◆」


舌なめずりをしたヒソカを放置してイルミは地面に深い穴を掘り始める。
そしてそこにすっぽりもぐると、「がんばってね、おやすみ」といって穴を閉じた。
ヒソカはそんなイルミに気持ち悪いくらいにっこり笑いかけ、穴が閉じるまで見送った。
さっきの小鳥がもどってくる。


「僕たちも一休みしようか、」


ゴンや他のみんなにいいとこ見せたいしね。
ヒソカはそうつぶやいて、小鳥を肩に乗せたまま空を見上げた。

空は綺麗に晴れていて、夕焼けがまぶしかった。



「(えっあれだれ……!?)」


そんな光景を終始陰から見ていたゴンは
ぞっとしたように身震いした。



(おれの見間違いだよね…うん…うん、集中集中)


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