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新しく連れてこられた部屋。
質素だけど品の良い家具、本棚にはぎっしりと本が詰められている。
広めのバスルームもあるし、テレビもある。
残念なことに窓はないけれど、美しい絵画が飾られていた。

俺、こんなVIP待遇でいいのか。
なんて思ってしまうのだけど、やはりこの空間はいいものだ。
というわけでもういいとしてこの部屋を楽しむ所存である。

いつの間にかここを自分から抜け出そうとする気持ちが一切無くなっていることには気づかぬふりをして、テレビをつけてみる。
地域が違うので仕方ないが、普段見てたのと一風変わった番組が多い。
しかし、二つほど寮でも見ていたバラエティーのものがあったので懐かしい気分でそれを眺める。

夕食はクレメンスさんの美味しい料理、そして長風呂した後だ。
夜更かししても誰にも怒られないし、朝飯作らなくてもいいし、もうちょっと。

番組が終わった後はクレメンスさんがくれた本を読む。

『これ、ですか?』

『ああ。・・・あくまで、一説だ』

『?はい』

『でも、事実かもしれない』

そんなことを言われてしまえば読むしかないだろう。
昼間の会話を思い出しながら本の表紙をめくる。

これもまた花嫁や王についてのもので、控えめに隅に描かれた花が可愛い。
全部を読みたいのだけど、今日は付箋でここを読んだらいいよと教えてくれたのでその場所だけで我慢しよう。


最初は気軽な気持ちで読んでいた。
宝具の説明だったのだが、最初はどの文献でも読んだような文章だった。
それに飽き始めた頃、ふいに目に入った文章に目を開く。

【本物の宝具は初代以降行方不明である。
 新たに元老院の術者や魔具開発者が作ったものを使用している。
 これは王でなくても誰でも取り扱えるものである】

「・・・にせ、もの?」

いや、宝具は宝具なのだろうけれど、初代の花嫁がつけていたものではない。
それは王にしか扱えないもので、新たに作られた、‘誰にでも’扱えるものとは別のもの。

そこで思い出す。
リカルドから聞かされたあの話
初代花嫁は当時の王を拒絶して、どこかへと行ってしまった。
その時に宝具は花嫁がつけていたのだろうから、行方不明の花嫁と宝具。
なんら不思議なことはない、誰もが想像できる事実。

元老院が出来たのは初代花嫁と王が結ばれた後。
元々世界にはそれぞれある程度権力を持った者達はいたけれど、国として、世界としての権力者などいなかった。
しかし、王と花嫁、世界を統べることの出来る者達が生まれた。
王達を助けるのが元老院の役目だったはずだ。

王ですら行方を知ることの出来なかった花嫁。
それを見つけ出し、宝具を奪うことなどできたのだろうか。
初代王の亡き後もこうして世界の仮の統治者として君臨する元老院。
その歴史の中で隠された宝具を見つけることが出来たのかもしれない。

今身に着けている宝具。
紅からの口づけを貰いその効力は発揮している。
だけどやはり胸を占めるのは不信感ばかりであった。

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