クレメンスさんと一緒にリカルドの部屋へ作ったものを持って行った。
一応屋敷の人間であるクレメンスさんがいるとはいえ、こんな時も見張りの人は居ないのにこちらのほうが心配になる。
クレメンスさんたちは使用人の人と共に食べるそうなので持っていくだけですぐ退室してしまったので向かい合うように座る。
並べられた料理は、リカルドにとって初めて見るものだったようで興味深そうな視線が感じられて、ちょっと嬉しい。
「召し上がれ」
「・・・、」
「・・・?」
「いただき、ます」
「はいどーぞ」
俺が召し上がれというとリカルドは何故かちょっと戸惑ったように視線を動かして、どうしたのだろうかと思った。
しかし、答えは簡単でいただきますと言うのに慣れていないだけだった。
可愛いなぁ、なんて思ってしまって、隠すように不慣れな食事の挨拶に応えた。
そうして無言で食べ進めるリカルドから感想を待つ。
やっぱり、初めて食べさせる相手の感想は気になってしまう。
「美味い」
ようやくもらえた感想は、なんともうれしい言葉。
純粋に、心の底からほわっとした感情が溢れ出てくる。
その感情は、紅にも感じたことのあるもので、思わず戸惑ってしまう。
いけないことのような罪悪感が溢れて、痛い。
そんな俺の様子に気づいたリカルドが首を傾げる。
「どうした?まだ一口も食べていないな」
「何でもないです。感想をきけたらほっとして、」
「考えるな」
なにを、なんてきけなかった。
わかっているから。
どうしても考えてしまう。
比較して、真実が恐ろしくなる。
だからこそ、その言葉にしたがって思考を閉ざしてしまおう。
ようやく箸を持って自分が作った料理を口に含む。
ああ、この味付けは、紅が好きな俺には少し濃い味だ。
全てから記憶が溢れていくんだ。
それが怖くて、だけど懐かしいような愛しいような気もする。
「これは、なんていうんだ?」
俺の感情をわかっているだろうに、彼は気付かないふりをして問いかけてきた。
「ひじきっていうんですよ。海藻の一種なんですけど」
「初めて食べた。クレメンスはこんなものをいつ買ったんだろうな」
「お料理は完全にクレメンスさんに任せてるんですね」
「ああ。アイツの料理は美味いだろう」
「はい」
「でも、お前のも十分美味い」
「・・・ありがとうございます」
不意打ちだ。
やっぱり嬉しくなっちゃうんだよなぁ。