「人間に変わる!?」
びっくりして、思わず大声で聞き返してしまう。
つい先日も黒化した吸血種はどうなってしまったのだろうかと考えてはいたが、まさかこんなところでその答えがきけるとは。
「ああ。当時動物の血液を摂取し我慢するというのはなかったらしくてな。その上捕食対象の人間が少なかった」
「・・・それで?」
「人間を増やしてくれたので当時起こりかけた吸血種の飢餓はなくなった」
一般的に人間の血液の方が美味しいらしい。
吸血種同士での契約もあるから吸血種でもいいのかもしれないけど。
よくわかんないけど味の好みがあるんだろう。
それにしても俺の血液は吸血種を人間に変えてしまう効果があるとは。
愛子の力は与えるだけのものかと思っていたのだけど、想像以上に凄いやつだ。
なのにそんな血でも吸血種は嬉々としてこの血に群がってくる。
どうして、と思ってしまうのは俺が人間だからか。
「その香りで、誘き寄せているんだ」
まるで俺の思考を読んだかのように疑問に答えてくれた。
質問するとちゃんと答えてくれるので、疑問を口早に投げかける。
「吸血種はそれをどう思ってるの?てか人間になってしまうって知ってるの?」
「先程も言ったが実力社会だ。弱いものは捕食対象になる、それだけだ。それと知ってる者は極僅かだろうな。」
何でもないことのように言い切るけれど、それでいいのか。
いや、いいからこんなにもあっさりと言うのだろうけど。
今の話でわかったのは俺の血液はそのまんまの意味で表裏一体の毒と蜜ってこと。
そして吸血種もあまり認知していない、まぁ匂いに引き寄せられて理性が失われるから知ってても無駄だとも言われたけど。
「ん、そっか・・・それで、花嫁の力について教えて」
なんだかこの話題を早く切り替えたくて早口で言うと、彼は頷いて別の話へ移った。
では、花嫁の力についてだが。
その純潔なる肉体や尊い血液を守るために邪なるものを防ぐ力があると言われている。
それで、力の行使についてなんだが、正直よくわからない。
余談だが初代花嫁はその絶対防御を祖先に、即ち王に使ったとされる。
その後花嫁は、どこへ行ったかわからない。
ああ、だがその時点で子孫は作られていたので我らの血は途絶えてないがな。″
「え、花嫁が王を裏切ったの?てか結局防御はわからないのか・・・」
「すまない。これについては花嫁の、人間のことだしな」
「いえ、そうですか・・・」
「それでだな、花嫁は他の吸血種を愛していたらしい」
「・・・凄い行動力ですね。だって、花嫁は、王の、もの」
一言一言区切るように、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
後悔はしていない、助けに来てくれたら紅を全力で愛そうと思っている。
それに、嘘はない。
「花嫁と王は運命的なものだと言われてるが、果たして本当なのか」
「・・・?」
「他を愛してしまうんだ。運命ではない。呪いか、なんだろうな」
空を見たまま、ふいに零された呟き。
この人は、事実は置いといて自分のことを王だと思ってる。
王は花嫁と結ばれると信じている。
だけど、それは運命ではないことをその祖先は語っている。
「あなたは、誰を愛してるんですか?」
「・・・・・・・お前だよ」
髪をそっと撫でられて、喉にこみ上げてくるものがあった。
これはなんだ、同情か、それとも。
愛ではないことは確かだ。
情でもないことも確かで。
「今日は、もういいです。また明日会いに来てください」
目をしっかりと合わせて言い放つ。
彼はゆっくりと頷いて、おやすみと言うとそのまま去っていった。