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紅に会えない。
その上リカルドにも会えない。

逃げ出す機会は何度も何度も探してみた。
しかし、隙がないのだ。

あれから数日が立った。
リカルドは一度も顔を出さずに、使用人とは何人かと会ったものの会話はほぼなし。
クリウスが日に一度は来て体調だったり欲しいものを聞いてくるぐらいか。

暇つぶしのために本を貰えたのはいいけれど、人と会話できないのはこうも精神的に来るのかと知った。
その割にはこの環境に慣れてきてしまったのだけれど。

最初から予想していたとは言え、使用人の人たちや執事とか家令的な役割であろうクリウス達もそこそこ強い吸血種らしく、宝具を二つ三つ外せば眉を顰めるものの特に影響はなかった。
弱い吸血種は一つ外しただけでダメだったり、これまで黒羽さんに助けられて事なきを得た出来事を思い出す。
小さな出来事は紅には言わないでっていっといたけど、まぁ伝えられてるんだろうなぁ。

嗚呼、恋しいものだ。
失ってから大切なものに気付くというが、喜ばしいことに俺はまだ失っていない。
ここから逃げることが出来れば、伝えたい。

でも、あの瞳が。
初めて身体を重ねたあの日の夜に見た瞳が。

本当に、救われない話だ。
なんだかやるせない。

好きになれるんだと思う。
紅の事を。
どれだけ望んでなかったといっても、結局受け入れてはいるし優しくしてくれるし、周りは祝福してくれるし。

絶対的なハッピーエンドとは言えないかもしれないけど、俺みたいな平凡、もしかしたら一生恋人も出来ずに終わっていたのかもしれない。
てか俺は可愛い女の子を娶りたい云々言ってたけど嫁に来てくれるって確証はないからなぁ。
顔面格差社会とはなんと辛いものだろうか。

紅の屋敷では紅は居なくともメイドさんや執事さん、たまにカイン先輩などがかまってくれていたけれど、ここでは話し相手など誰もいない。
思考がどうでもいいことだったりこれからのことだったり、整理しなきゃいけないのにあっちこっちと大忙しだ。


取りあえず悲しき顔面格差社会などは置いといて、紅のこととかリカルドのこと、この屋敷の使用人とかについて考えよう。
下手に抵抗したり逃げ出すのは確実に得策ではないと思うし、まずそんなことする度胸も隙も無いのだから。

もういっそ力の確認とかで宝具を全て外してやろうかと、面倒になってしまう。
こんなんだからまともに一つのことを考えられないんだろうなぁ。

今までを思い出しても俺の血液に触れたり、愛子の匂いにやられた吸血種は呻き声や奇声を上げていたので、黒化させて意識を失わせてもすぐに別の使用人に見つかるだろう。

そういえば、黒化させてしまった人たちはどうなったんだろう。
本当に今更ながらな疑問なのだけれど。

目を覚ましたとか、黒化してしまった肌が元に戻ったなど聞いたことがない。
愛子の血液に触れて黒化した話などは文献を読んでてもよく書かれてあるのでとても有名なことなんだろうけど、その後がない。
まさか死んでしまったのか、と思ったけどその記述すらないから想像するだけ。

ったく、これでは想像力だけが逞しくなっていく。
肉体的には閉じ込められてたりメイドさん方に世話してもらって筋力の衰えは激しいだろうなぁ。
まったく男児として情けないものだ。

小さくため息をついて目を伏せ、それから再び想像力を働かせようとして顔をあげると、目の前には数日前に見たリカルドがいた。

「ぅわ、びっくり・・・した」

「そうか、すまなかったな」

全然悪いと思っていない口ぶりだけど、やっと、来た。

太腿の上で握りしめた指から、そっと指輪を外す。
きっと俺が何か行動を起こしてもリカルドは気にかけもしないんだろう。
だから、結構大胆に目の前でネックレスや腕輪などを外していった。

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