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時計も何もない簡素な部屋。
やることは何もなくて、出された食事も食べて、寝て、ぼおっとしているだけ。

暇だしすることもない。
1日目でこれなのだから、数日したら気が狂ってるかもしれない。
時間の感覚が無くなりそうな中、そうなる前に紅が来てくれることを祈るしかすることはなかった。

そう言えば、黒羽さんはこの屋敷を既に特定している。
しかし、すぐにやられてしまったのだ。
それは一人だったからなのか、あの人、リカルドが強すぎたからか。
それを確かめるにはどうする、確かめて何になる。

そう思ったけれど、暇なのだ。
暇つぶしとでも言えばいいのか。
さて、とりあえずリカルドの強さを確かめることは決定として、どうしよう。
宝具を取り払えば簡単に分かるだろうけど、リスクが高すぎる。

弱いのならば血に触れればすぐに倒れてくれる。
しかし、強かったら血を吸われて更にパワーアップしてしまう。
それが俺の血の力だし、そして確かめるにはこの方法しかない。

とりあえず腕輪とネックレスぐらい外してみようか。
流石に一気に外すのは危険だし。

ほんの悪戯心と、暇つぶし、そしてそこまで強くないなら紅が助けにすぐ来てくれる、それを確かめたかった。
強い吸血種だったら・・・でも、きっと紅が勝つだろうし。

昼食は既にとって、夕食になるまであとどれぐらいかはわからない。
することもないし、とりあえず寝てしまおう。
なんでここにきて平常心に戻ってるのかと言われたら、一周回って面倒くさくなった。

そうして昼寝をしたおかげで頭はスッキリした。
昨日リカルドと話して精神的にやられていたのかもしれない。

花嫁であること、それしか俺にはない。
そう思ってしまうのは変わらないけど、花嫁として生まれたのは事実だから。
人を好きになるにも見た目から入る人だっているのだ。
むしろ俺の平凡顏であんなイケメンがゲット出来るのはラッキーなのか、なんてやさぐれてみる。

少しだけ心が軽くなった気がするのが若干悔しいものの、話せる人っぽいので少しずつでも開放してくれって訴えていこう。
あまり言いすぎると怖いし、昨日会ったばかりなのだから未知数な存在だ。

ああ、そうだそろそろ指輪とかを外そう。
でもなんだか少し寂しくて痛いかもしれない。
この指輪にキスしてくれた紅は、今なにしてるんだろう。
俺を探してくれてるかな。

指輪とネックレスを外し、何無くなった薬指や首元に触れてみる。
冷たくなった気がした。

そんなことをしていると、給仕の人が来て静かに料理を並べてった。
一言も声を発さない、けれど苦痛に歪んだその顔。
はっとして外したばかりの指輪をはめると少しだけ楽そうになった顔を見てほっとした。
その後、逃げるように去っていった。
とは言っても外側から鍵をかけるのだけは忘れてないみたいだけど。

今夜はシチューで、湯気が立っている。
一口食べるとあったかくて、優しい、俺の好きな味だった。
無性に両親に会いたくなった。
そんで自分で作りたくなった。

ため息を吐いても、両親を恋しがっても、味は変わらない。
添えられたパンやサラダも食べきって、座ったままで呆けたまま。

そこで、今更ながらにリカルドに会えるのはいつだろうと考えてみる。
昼も夜も食事は同じ給仕の人だった。

それはいいとして、この部屋に用がある時しかこなさそうなあの顔を思い出す。
真顔で、眉を寄せるしか変化のないつまらない顔。
そのくせ、体格もいいしイケメンっていうね。
あ、だめだイライラしちゃう。
なんで俺はイケメンじゃなかったんだ。
こんな顔してたらいずれ紅の隣に立つ時、アイツ普通のくせして紅様の隣に!的なことが起きそうだ。
こわいなぁ。

紅のことを思い出すと自然と安心して頬が緩む。
はやく、会いたい。

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