花嫁でない自分には存在価値がない。
前々から刻まれてきたそんな価値観が、心を抉るように言葉となり俺を傷つけていく。
まだ、痛いと感じる。
「だから、もう・・・やめて」
まるで子供のように、親から無条件の愛をねだるように。
俺だって、無条件に愛したいし愛されたい。
そこに男だとか花嫁だとか生まれたとか、そんなものは混ぜて欲しくない。
心が、ぐちゃぐちゃだ。
仮に元々綺麗なハート型をしていたとしたら、俺の心はもう、そんな原型など少しも残ってないのだろう。
「何故?花嫁はお前だ」
「花嫁だから、俺のこと、」
「でも、お前は花嫁として生まれた。自分は何故生まれたなど考えないだろう?」
「そうだけど、」
「よく本などに書かれているが、どこに生まれるかは置いといて、どう生きるかだ」
「・・・」
「そして、お前が選んだ生き方をして、俺を選んでくれ」
俺が、選ぶ。
俺に選ぶことなど出来るのだろうか。
紅かリカルドどちらかと言うのは、答えはでてるのでそうじゃない。
俺に選ぶ権利が与えられるかだ。
疑心暗鬼になっているからか、今身につけている宝具が本物か、なんて考えてしまう。
ああ、そう言えば今日に限って宝具を全てつけている。
運がいいのか悪いのか。
「ん・・・あぁ、宝具か。そのままでいい」
俺がじっと指輪を見つめていたことから、気がついたようだ。
しかし、彼はそう一言いうだけ。
なんだか、不思議な人。
「変な人ですね」
「そうか?あまり他人と関わって生きていないからな」
「この、屋敷には貴方とクリウス意外にもいるんですか?」
「常にいるのは他に3人だ。いずれ会うだろう」
「そうですか」
逃す気はない、ということだろう。
暫く俺がここに居るのは既に決定事項というわけか。
小さく溜息を吐いた俺の頭に、再びリカルドの掌がのった。
今度は、振り払おうと思わなかった。
「どうした?俺は、人と接するのが下手だから、変なことを言ってたら悪い」
なんだ、なんで、優しいの。
俺が花嫁だから。
でも話してみて、こんなに早く警戒心が薄くなってしまったなんて。
だめだと思う心と、この人がもしも、もしも、王だったら。
なんて、考えてしまうんだ。
そんなことを思ってしまう僅かな罪悪感に、無理矢理話を変える。
この人は、話を聞いてくれる人だ。
「表情もあまり変わらないですね」
「確か感情は教えて貰わないと身につかないそうだが、俺は教えて貰ったことがない。表情も一緒かもな」
「それは、笑うことを知らないと?」
「いや、知ってはいるんだ。本が教えてくれた」
「そう、ですか」
親が、教えてくれる愛。
小さい頃のことは記憶がないからわからないけど、親が笑ってるから笑ってた記憶がある。
そうやって、嬉しい時、楽しい時に笑うのだと、感情と共に教えて貰った。
でも、彼にはいなかった。
ここで同情してしまうのは、敵の、彼の思う壺。
わかってるのに、なんで、こんな。
ふいに、紅の過去を知ってるのか自問してみた。
暮らしてからの紅の好みぐらいは知ってるけど、他は、何も知らなかった。