6

困惑し、何をするでもなく虚空を見ていた俺をベッドに座らせる男。
彼は目の前に立ち、あやすかのように頭をクシャクシャと撫でてきた。
その手を払いのけ、睨みつける。

「どうした?花嫁よ」

「その呼び方、やめてくれません?」

「では何と呼べば?」

そう言われれば、自分から名前を呼んでくれと言うのもいやだ。
だからと言ってこのまま花嫁や愛子と呼ばれるのもしっくりこない。
呼び方なんて呼ばれなければ必要ないと思うのだが、絶対に関わらなければならないだろうし。

「・・・俺は、桜月透です。好きにして下さい」

「では、透だな。俺はリカルドとでも呼んでくれ」

「わかりました」

素直に返事して、早く立ち去ってくれるのを待つ。
本当に疲れている。
身体は休みたいと叫んでいるし、思考もこの現実から一時でいいから離れたいと言っているのだ。

「我が花嫁よ、いや透。気分が悪いなら早く寝ろ」

「だから我が花嫁ってやめて下さい。王は紅です」

「何故?お前は俺の花嫁だ」

「嫌味ですか、皮肉ですか、ただの嫌がらせですか?」

ああ、もうイライラする。
俺の旦那は紅で、身体も繋げたし宝具もつけられたからその証明にもなる。

「もう一度言う、お前は俺の花嫁だ」

「証明は?」

「俺はお前を愛してるから」

「は?意味がわかりません。俺のどこを愛してると?」

「花嫁だから」

「っ、そうですか」

こうして、どんどん俺は花嫁としてでしか存在価値が無いと刷り込まれる。
実際、花嫁でなければ紅ともこの男、リカルドとも出会わなかったのだろうけど。

「俺にその気は無いが気分を悪くさせて悪いな」

そう言ったリカルドはあとから言い訳のようなことを語る。
曰く、悪気はなくともされた側が感じたら悪意となる。
この場合も俺には悪意などないけどお前が感じたならそうなってしまう。
面倒だな。
と言ったところだ。

まぁ、確かに相手に対して何か行動を起こしたら相手が嬉しいとか悲しいとかを決めてしまう。
相手がそう思ったのならば自分は何もできない。
それを面倒だと言い切るところは、すきになれそうにない。

違う、そんなところも好きになれない。
紅の敵だから嫌なんじゃない、この男がいやなんだ。

「じゃあ、寝るんで出て行って下さい。俺のこと、好きなんでしょ?」

「ああ。でも一つ言っておきたいんだが、風呂に入ってくれ」

「え、この部屋風呂あるんですか?」

思わず素で聞き返してしまった。
でも、風呂に入れるならありがたい。
汗や涙で汚いままだと余計に身体が重く感じてしまう。

「寝る前に入るか?早くその臭いを落として欲しいし」

「臭い、ますか?」

そんなに臭いのかと手首のあたりを鼻に近づける。
僅かに汗の香りがするものの、臭いとまではいかない。

「俺の花嫁なのに、他の臭いがする」

一人呟いたリカルドの目が座っている。
ピリッとしてて、空気から迫力というか、何かが伝わってくる。

「俺の、花嫁。愛してる」

「っ、愛してるなんて言うな!」

花嫁と呼ばないでと言ったのに、なんなんだ。
その上愛してるだなんて。
花嫁だから愛している、そう、俺のことは好きじゃないくせに。

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